スナーク号の航海(27) - ジャック・ロンドン著

というわけで、実際の波乗りの原理についての話になるが、まず長さ六フィート、幅二フィートの細長い楕円のような形をした平らな板(ボード)を手に入れよう。そこにソリに乗った小さな子供のように腹ばいになり、両手でこいで海に出ていく。波が盛り上がりはじめているあたりまで行き、そのままボードの上で静かに待つ。次から次へと波がやってきては、自分の前後左右のいたるところで崩れながら、君を置き去りにしたまま陸へと押し寄せていく。波は立ち上がるにつれて勾配が急になってくる。その急激に立ち上がった波の前面で、自分がボードに乗っていると想像してみよう。じっとしていれば、坂を滑り落ちるソリに乗っているように、その斜面を滑り落ちていくだろう。「待てよ」と、君は異議を唱える。「波は動いているじゃないか」。その通り。だが、波を構成している水は動かないのだ。そして、そこに秘密がある。もし君が波の前面を滑りはじめれば、君はそのままその滑り落ち続けていくが、決して海底にぶつかることはない。冗談じゃないぜ。波の高さはたかだか六フィートしかないとしても、君はその分の高さを落下する間に四分の一マイルか半マイルも滑っていくことができるんだ。海底にぶつかることなく、ね。というのも、波は水の動揺や運動の力が次々に伝達されているにすぎないからだ。波を構成する水はたえず入れ替わり、新しい水が波と同じ速さで持ち上げられては波になっていく。君は波における元の位置を保ったまま、次々に盛り上がっては波に加わってくる水の上を滑り降りていくことになるわけさ。きっかり波の速さと同じスピードでね。波の速さが時速十五マイルなら、君も時速十五マイルで滑っていくんだ。君と浜辺までの間には四分の一マイルほどの海面がある。波が進むにつれて、この海の水が積み重なって波となり、後は重力の作用で下降していく。滑っていく間も、水が自分と共にずっと動いていると思うんだったら、もし滑りながら腕を水に突っこんでこいでみればいいさ。君は驚くほどの早く水をかかなければならなくなるだろうよ。というのも、そこにある水は君が前進するのと同じ速さで後方に落ちていくからだ。

お次は波乗りだ。規則には常に例外がある。波を構成する水自体が前へ進むのではないというのは本当だ。だが、いわゆる海に送られるという現象は存在する。走っていてつまづくと体が前に投げだされるように、立ち上がって勢いあまって巻き波になりかけた水は、なおも前進しようとする。崩れ落ちる波の下敷きになってしまったら、ものすごい力で打ち倒されて海中にしずめられ、息をしようと三十秒ほども口をぱくぱくやるはめにもなる。波の頂点にある水は下の方にある水の上に乗っかっている。が、下の方の波が海底にぶつかり動きが止まってしまっても、上の方の水はそのまま前進しようとする。下の波はもう支えることができない。そうなれば、上の方の波の下には空気しかないことになり、水は重力の力で落下していく。と同時に下の方の遅れた波とは離れて前方へ投げだされてしまう。この点が、サーフボードに乗るのとソリで斜面をおとなしく滑り降りるのとの違いだ。実際に、巨人のタイタンの手でつかまれて、浜辺に投げ飛ばされるような感じなのだ。

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腹ばいになったり、立ち上がったり

ぼくは涼しい木陰を出た。海水パンツをはき、サーフボートをかかえた。ぼくには小さすぎたのだが、だれも何も言わないし、気がつかなかった。ぼくは、浅いところで、カナカの少年たちに加わった。そのあたりは波も小さくて、いわば波乗り幼稚園といったところか。少年たちをじっと観察する。よさそうな波が来ると、彼らはさっとボードに腹ばいになり、足を必死にばたばたさせ、そのくだけ波に乗って岸までいく。ぼくも真似をしてやってみた。観察し、同じようにやってみたが、まったくうまくいかない。波はあっというまに通り過ぎてしまい、ぼくだけとりり残されてしまう。何度も何度もやってみた。連中の倍ほども足をばたばたさせたが失敗した。周囲には半ダースほどの子供がいた。みんな、いい波がくるとボードに飛び乗り、川を行き来する蒸気船のように足を動かして行ってしまい、ぼくだけみっともなく残される。

ぼくは丸一時間もやってみたが、波に乗って岸に向かうことはできなかった。そうこうするうちに、一人の友人がやってきた。何かわくわくするようなものを求めて、仕事で世界各地を旅行しているアレクサンダー・ヒューム・フォードという男だ。そして、ワイキキでそれを見つけたのだ。オーストラリアに行く途中で、波乗りがどんなものか体験しようと一週間ほど立ち寄るつもりが、そのとりこになってしまったのだ。彼はひと月のあいだ、毎日波乗りをしていたが、飽きた様子はなかった。その彼が厳かにこう言った。「そのボードから降りなよ」と。

「すぐに捨てろ。自分が何に乗ろうとしているかわかってんのか。そのボードの鼻先が海底にでも刺さったら、脳天かちわられるぜ。ほら俺のボードを使えよ。これが大人用のサイズってやつだ」

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