今週の名言・迷言 41

詩を翻訳すると、何かが失われてしまう

ロバート・フロスト

ロバート・フロスト(1874年~1963年)は、アメリカで世俗的に最も成功した詩人の一人です。

世俗的にというのは2つの意味があり、その1つは、ピューリッツァー賞を4度も受賞し、アメリカ芸術科学アカデミーの会員に選出され、ケネディ大統領の就任式に招待されて自作の詩を朗読するなど、詩人として考えられる限りの名誉を生前に受けたということです。

詩を翻訳すると失われてしまうものがあるというのは、なんとなくわかりますね。
欧米の詩は韻を踏んでいるものが多く、日本の俳句や短歌は五七五(七七)で、一定のリズムがあって、そういうものがなくなってしまうと「なんか微妙にちがう」という感じになります。

芭蕉の俳句  静けさや岩にしみいる蝉の声

この有名な俳句には、定着した英訳があります。

Deep silence, the shrill of cicadas, seeps into rocks.

深い沈黙、セミの鋭い鳴き声、岩にしみこむ

意味を忠実に訳してあるのですが、ディープ・サイレンスでは、静けさやの「や」の感じがないとか、石とロックじゃ、ちょっと違うかも……共通語と方言でニュアンスが少し違うというようなことでしょうか。もっとも、フロストはそんな皮相的なことではないというかもしれませんが――

世俗的という2つ目の理由は、彼の詩は平易な言葉で表現されていて学校でも広く教えられているので、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」のように、アメリカ人なら誰でも知っている詩があるということです。

英語圏では、ホイットマンやエリオットの詩は知らなくても、フロストの詩は知っているという人は多いでしょう。

その一つが「選ばなかった道」と題する詩です。

森の中に、人が通って踏み固められた道と、人気がなく草が生い茂った道の二つがあり、自分は後者を選んだ。なぜなら、自分の行く道は自分で選ばなければならないと思ったから……といった内容の、平易な言葉で人生についてわかりやすく述べたものです。

フロストには「私は人生について学んだすべてを3語にまとめることができる。それは、人生と「続いていく」(it goes on)ということだ」という言葉もあります。

今週の名言・名言

ファンタジーって、現実逃避なんかじゃないんだ。現実を理解する方法の一つなんだよ。

ロイド・アリグザンダー

ロイド・アリグザンダー(1924年~2007年)は、アメリカの児童文学者で、ファンタジー作家です。

『人間になりたかった猫』や、全米図書賞を受賞した『セバスチャンの大失敗』、全5冊の『ブリデイン物語』ほかの作品があります。

宮沢賢治など、ごく一部をのぞけば、日本の明治以降の文学でファンタジーは少数派でしたが、マンガやアニメでは、逆に、主流になっていますね。

現実にとらわれず、大きな枠組みだけを抜き出して全体を俯瞰したり、逆に、とことん細部にこだわって、そこにだけスポットを当てて描くというときには、ファンタジーというスタイルが適しているのかもしれません。

といいながら、紫式部が源氏物語で「日本最も古い物語」と述べた竹取物語(かぐや姫)はファンタジーそのものなので、マンガやアニメのファンタジーは先祖返りしているといえるのかもしれません。

今週の名言・迷言 39

人生にはスキャンダルより悪いことが一つだけある。それはうわさにすらならないことだ

オスカー・ワイルド

先週の名言・迷言とのからみでいうと、「悪名(あくみょう)は無名(むめい)に勝る」と同じような趣旨でしょうか。

オスカー・ワイルド(1854年~1900年)はアイルランドのダブリンで医師の家系に生まれ、イギリスとフランスで作家活動を行った詩人・劇作家です。

成績優秀で、ダブリン大学を経てオックスフォード大学に進学し、首席で卒業しました。傑作の『サロメ』はフランス語で執筆しています。

派手な格好や言動のため、若くして社交界で注目を集めるとともに、女性や男性との交友関係がさまざまなスキャンダルにもなりました。

卑猥行為(男色)で投獄されたり破産宣告されたりしたあげく、性病の梅毒に起因する脳髄膜炎のため、フランスのパリで死亡しました。享年46歳。

葬儀には数人しか参加しなかったといわれています。

「人生には二つの悲劇しかない。一つは、自分の望むものが得られないことであり、もう一つはそれを得てしまうことだ」という言葉も残しています。