人生の名言・迷言 42

Love 愛【名詞】 結婚によって治癒可能な一時的狂気

アンブローズ・ビアス

アンブローズ・ビアス(1842年~1913年?)は、『悪魔の辞典』などシニカルな著作で知られるアメリカのジャーナリスト/作家です。

南北戦争を題材にした『アウル・クリーク橋のできごと』など、巧緻(こうち)な仕掛けがなされた短編を残した作家としても知られていますが、71歳で旅に出たまま、現在に至るまで消息不明となっています。

「愛」の定義では、この病気は虫歯などのように、人工物に取り囲まれた文明国の人間に特有のもので、きれいな空気を呼吸し汚染されていない食物を摂取している非文明国の人間は罹患しない云々、と続きます。

精緻(せいち)に計算されつくした短編ではひけをとらない日本の作家、芥川龍之介の短編『藪(やぶ)の中』や箴言(しんげん)集の『侏儒(しゅじゅ)の言葉』は、それぞれビアスの短編『月に照らされた道』と『悪魔の辞典』に触発されたものだといわれています。

なお、悪魔の辞典では、愛という一時的な狂気を治癒するという結婚についても、こう記しています。

Marriage 結婚【名詞】一人の主人と一人の女主人、それに奴隷二人からなるが合計しても二人しか存在しない共同体という状態または状況。

おことわり: このところ掲載が不定期になっているため、今回から「今週の名言・迷言」を「人生の名言・迷言」と名称変更します。

今週の名言・迷言 41

詩を翻訳すると、何かが失われてしまう

ロバート・フロスト

ロバート・フロスト(1874年~1963年)は、アメリカで世俗的に最も成功した詩人の一人です。

世俗的にというのは2つの意味があり、その1つは、ピューリッツァー賞を4度も受賞し、アメリカ芸術科学アカデミーの会員に選出され、ケネディ大統領の就任式に招待されて自作の詩を朗読するなど、詩人として考えられる限りの名誉を生前に受けたということです。

詩を翻訳すると失われてしまうものがあるというのは、なんとなくわかりますね。
欧米の詩は韻を踏んでいるものが多く、日本の俳句や短歌は五七五(七七)で、一定のリズムがあって、そういうものがなくなってしまうと「なんか微妙にちがう」という感じになります。

芭蕉の俳句  静けさや岩にしみいる蝉の声

この有名な俳句には、定着した英訳があります。

Deep silence, the shrill of cicadas, seeps into rocks.

深い沈黙、セミの鋭い鳴き声、岩にしみこむ

意味を忠実に訳してあるのですが、ディープ・サイレンスでは、静けさやの「や」の感じがないとか、石とロックじゃ、ちょっと違うかも……共通語と方言でニュアンスが少し違うというようなことでしょうか。もっとも、フロストはそんな皮相的なことではないというかもしれませんが――

世俗的という2つ目の理由は、彼の詩は平易な言葉で表現されていて学校でも広く教えられているので、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」のように、アメリカ人なら誰でも知っている詩があるということです。

英語圏では、ホイットマンやエリオットの詩は知らなくても、フロストの詩は知っているという人は多いでしょう。

その一つが「選ばなかった道」と題する詩です。

森の中に、人が通って踏み固められた道と、人気がなく草が生い茂った道の二つがあり、自分は後者を選んだ。なぜなら、自分の行く道は自分で選ばなければならないと思ったから……といった内容の、平易な言葉で人生についてわかりやすく述べたものです。

フロストには「私は人生について学んだすべてを3語にまとめることができる。それは、人生と「続いていく」(it goes on)ということだ」という言葉もあります。

今週の名言・名言 40

ファンタジーって、現実逃避なんかじゃないんだ。現実を理解する方法の一つなんだよ。

ロイド・アリグザンダー

ロイド・アリグザンダー(1924年~2007年)は、アメリカの児童文学者で、ファンタジー作家です。

『人間になりたかった猫』や、全米図書賞を受賞した『セバスチャンの大失敗』、全5冊の『ブリデイン物語』ほかの作品があります。

宮沢賢治など、ごく一部をのぞけば、日本の明治以降の文学でファンタジーは少数派でしたが、マンガやアニメでは、逆に、主流になっていますね。

現実にとらわれず、大きな枠組みだけを抜き出して全体を俯瞰したり、逆に、とことん細部にこだわって、そこにだけスポットを当てて描くというときには、ファンタジーというスタイルが適しているのかもしれません。

といいながら、紫式部が源氏物語で「日本最も古い物語」と述べた竹取物語(かぐや姫)はファンタジーそのものなので、マンガやアニメのファンタジーは先祖返りしているといえるのかもしれません。

今週の名言・迷言 39

人生にはスキャンダルより悪いことが一つだけある。それはうわさにすらならないことだ

オスカー・ワイルド

先週の名言・迷言とのからみでいうと、「悪名(あくみょう)は無名(むめい)に勝る」と同じような趣旨でしょうか。

オスカー・ワイルド(1854年~1900年)はアイルランドのダブリンで医師の家系に生まれ、イギリスとフランスで作家活動を行った詩人・劇作家です。

成績優秀で、ダブリン大学を経てオックスフォード大学に進学し、首席で卒業しました。傑作の『サロメ』はフランス語で執筆しています。

派手な格好や言動のため、若くして社交界で注目を集めるとともに、女性や男性との交友関係がさまざまなスキャンダルにもなりました。

卑猥行為(男色)で投獄されたり破産宣告されたりしたあげく、性病の梅毒に起因する脳髄膜炎のため、フランスのパリで死亡しました。享年46歳。

葬儀には数人しか参加しなかったといわれています。

「人生には二つの悲劇しかない。一つは、自分の望むものが得られないことであり、もう一つはそれを得てしまうことだ」という言葉も残しています。

今週の名言・迷言 38

人の性格を一番よく表しているのは、その人が自分に利益をもたらさない者をどう扱うかと、自分に反抗できない者をどう扱うかなのですよ。

アビゲイル・ヴァン・ビューレン

アビゲイル・ヴァン・ビューレン(1918年~2013年)は、アメリカのコラムニストで、「親愛なるアビー」で始まる、半世紀以上続く新聞の人生相談コーナーの名回答者として人気がありました。

同じく有名な人生相談のコラムニストにアン・ランダースがいますが、双子の姉妹です(どちらも筆名)。

アン・ランダースが先に人生相談コラムを連載し、その後にアビゲイルが「親愛なるアビー」のコラムを開始したのですが、事前に相談がなくパクられたということで、この姉妹は十年も続く大げんかをしてしまいました。

紙上で人生を論じ、生き方を説いていた回答者同士が、姉妹でありながら、口もきかない犬猿の仲になったわけで、それがスキャンダルとして大きく雑誌などで取り上げられました。

が、皮肉なことに、そのおかげで二人のコラムは全米中に知れ渡り、新聞で大人気の名物コーナーになっていったのです。

悪名(あくみょう)は無名(むめい)に勝る(There is no such thing as bad publicity)を地でいく話で、昨今のSNSの炎上商法も、検索ワードで上位に来れば広告収入が増すわけですから、それもうなづけます。

ところで、アビゲイル・ヴァン・ビューレンはすでに亡くなっていますが、「親愛なるアビー」ではじまる人生相談コーナーは現在も続いています。

本人が晩年にアルツハイマー病になってからは、娘が母親の名前を引き継いで回答を続けているようです。

歌舞伎や落語など日本の伝統芸能では「名跡の襲名」はごく一般的に行われていますし、サザエさんの作者の死後も新作アニメが毎週放送されているようなものでしょうか。

今週の名言・迷言 37

幸福の扉の一つが閉ざされたときには、別の扉が開くものです。でも、私たちは閉じた扉をずっと見つめているので、開かれた扉のことは目に入らないのです。

ヘレン・ケラー

ヘレン・ケラー(1880年~1968年)は、幼児のころにかかった髄膜炎の後遺症で目と耳に重度の障害を持ち、甘やかされて育てられました。

両親の依頼で盲学校から派遣されたアン・サリヴァン先生(当時20歳!)と出会ったことで、女子の高等教育(ラドクリフ・カレッジ。1999年にハーバード大学と合併)を受けるまでになり、障害者の教育や福祉に力をそそいだことで知られています。

三度も来日し、映画などで「奇跡の人」として知られていますが、この奇跡の人(The Miracle Worker” は、本来はヘレン・ケラーではなく、ヘレン・ケラーを導いたサリヴァン先生のことを指すのだそうです。

ちなみに、今年の平昌オリンピックの後、ロシアのフィギュアスケートのザギトワ選手に秋田犬が送られましたが、一世紀ほど前に来日したヘレン・ケラーに対しても、彼女の希望を受けて秋田犬が送られています。

今週の名言・迷言 36

私たちは人生を二度味わうために書くのです。一度目はその瞬間に、そして二度目は思い出として。

アナイス・ニン

アナイス・ニン(1903年~1977年)はフランスの作家。両親は欧州系キューバ人です。

十一歳から死の直前まで六十年以上にわたって日記を書き続けたことでも知られています。

より正確には、両親が離婚したため、父親に近況を伝える手紙という形で書き始めたものの、書くこと自体が心の支えになっていったということのようです。

生存中に公刊された日記には、パリでの銀行家の夫との結婚生活中に『北回帰線』などの作品で知られるアメリカの作家ヘンリー・ミラーと不倫関係にあったことが書かれていたことでも話題になりました(死後、『ヘンリー&ジューン』で映画化されています)。

彼女の無修正の日記は本人と最初の夫の死亡後、重婚状態にあった二度目の夫によって出版されました。

今週の名言・迷言 35

自分をいつわって愛されるより、本当の自分をさらけだして嫌われるほうがましだ。

アンドレ・ジッド

アンドレ・ジッド(1869年~1951年)は『狭き門』『法王庁の抜け穴』『贋金づくり』などの作品で知られるフランスのノーベル賞作家。

「自分をいつわって愛されるより」という言葉は、SNSでリア充を競い合っている現代にも通じるような……

ジッドは従姉と結婚し、『狭き門』や『田園交響楽』には彼女を思わせる人物も登場しますが、ジッド自身は同性愛者で、そのことも公言していました。

死後、彼の作品はローマ法王庁(=ローマ教皇庁)から禁書扱いにされますが、そういうことを踏まえると、この言葉には人生をかけた重みが感じられます。

今週の名言・迷言 34

真に幸福になるには、人は一日に五回、死について考えなければならない

ブータンの言い伝え

ブータンといえば数年前に国民の幸福度が世界一高い国として注目され、国王夫妻が来日して話題にもなりました。

国民総幸福量という概念は半世紀ほど前にブータン国で提唱され、それが国の政策にいかされているそうです。

先進国の現状を見ると、経済が成長し所得が増大することで幸福になれるのか疑問だ、それに比べて、国民所得の低いブータンでは国民の97%が自分は幸福だと感じている、という非常にわかりやすい比較で、当時はちょっとしたブームになりました。

この97%という数字自体は統計調査の設問に問題があるという指摘がなされていて、若い人の失業率も高く、現実の幸福度はそれほど高くないという説もありますが、「経済成長」や「お金」だけがすべてではないということ自体は広く共感を呼んでいるようです。

というわけで、なんと、それをもとにしたスマホのアプリもあります。

「忘れるな、君はいずれ死ぬということを」

英語では “Don’t forget, you’re going to die.”ですが、WeCroakというアプリは、この短いメッセージだけを一日五回送ってきます(実際の死と同じように時間は決まっていない)。有料なのに、ダウンロードしている人も少なくありません。

ちょっとイラッとする、目にしたくもないメッセージだし、朝出がけに送られてきたら頭にきそうですが、人生を無駄にすごしたくない、緊張感をもって集中して仕事や生活ができると、アメリカでは意外に評判もよく、ニューヨークタイムズなどでも取り上げられています(iOS版の評価では4.2、アンドロイド版では3.5)。

今週の名言・迷言 33

ぼくは、すべてのものについて、それが誤りであると証明されるまでは信じることにしている。だから、妖精や神話やドラゴンも信じてるんだ。心のなかだけであったとしても、そういうものはすべて存在しているんだよ。

ジョン・レノン

ジョン・レノン(1940年~1980年)は、イギリスのロックバンド、ザ・ビートルズの中心メンバーで、バンドの曲のほとんどはポール・マッカートニーとジョン・レノンが作詞・作曲を担当していましたが、両雄並び立たずで、レコードデビューからほぼ八年に事実上解散し、その後はそれぞれソロ活動や独自のバンド活動を展開しました。

ビートルズは二十世紀のポップミュージックを代表するロックバンドであり、メンバーそれぞれもすぐれたミュージシャンでした。

ジョン・レノンは一時期音楽活動を停止していましたが、再開後まもなくの1980年12月8日、ファンだと公言する男に自宅前で射殺されました。「ジョン・レノンが射殺された “John Lennon was shot to death.” というニュースはまたたくまに世界中に伝えられましたが、なぜ殺害にいたったのか、その理由はいまだに謎のままです。