4. 六分儀の使い方

ここでは、六分儀の使い方について理解しよう。

六分儀は、船の航海で天体の位置(角度や高度)を観測して現在位置を知るために必須の道具で、帆船やヨットの外洋航海では、こんな光景がよく見られる。
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観測しているのは『野生の呼び声』などの作品で知られる作家、ジャック・ロンドン (『スナーク号の航海』より)

ひとくちに六分儀といっても、時代やメーカーによってさまざまなので、一般に共通する部分の名称を示し、その仕組みについて説明する。

4-1 各部の名称

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写真は、日本で六分儀の代名詞になっているTAMAYA製のMS-733。
わりと新しい、ごく標準的なもの。軽合金製で重さは二キロ弱。
これを重いと思うか軽いと思うかは、使う人の体力と体調によるだろう。
長期の航海で疲れているときは、これを構えるだけでも結構な重さに感じることもある。

(1) 望遠鏡 telescope
(2) 動鏡 index mirror
(3) シェードグラス index shades
(4) 水平鏡 horizon mirror
(5) シェードグラス horizon shades
(6) 弧(アーク) arc
(7) 儀面 body
(8) マイクロメータ micrometer
(9) バーニャ vernnie

(10) 指標棹 index arm
(11) レバー release levers

(12) ハンドル handle

それぞれ役割
(1) 望遠鏡は、もちろん、ここに目を当ててのぞく。
(2) 動鏡(インデックスミラー)は天体をここに反射させて水平鏡に像を送る。
(3) シェードは濃淡が数段階あり、太陽を見るときは濃い色を使用する。
(4) 水平鏡は望遠鏡から素通しで水平線が見えるが、同時に動鏡からの映像を反射させて望遠鏡に送る働きもする。
(5)シェードは(3)と同じ。天候など周囲の状況によって適したものを選ぶ。
(6) 弧(アーク)はスケールともいい、1度ごとに目盛りが刻んである(-5~+125)。
(7) 扇形の儀面は鏡や望遠鏡を取り付ける本体部分。
(8) マイクロメータはアークの角度の微調整を行う。
(9) バーニャでは1度以下の角度を読む(0.2’)。
(10) 指標棹(インデックスアーム)を動かして角度を調整する。動鏡と一体。
(11) 指標棹の下にあるレバー二本を同時につまむと指標棹が動く。離すと固定される。
(12)ハンドルは写真に見えている側の裏側にあり、右手で持つ。

4-2.天体と水平線を見る仕組み

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上図でわかるように、天体の映像は動鏡で反射して、水平鏡に送られ、そこからさらに反射されて望遠鏡に送られる。
と、同時に、望遠鏡の視界には水平線もそのまま見えている。
天体の映像と水平線の実像が一直線に並ぶように、指標棹(インデックスアームの角度を調節する。
レバーで大体合わせ、マイクロメータを回して微調整する。

4-3. 実際の観測手順
A.六分儀を調整する。
(1) 動鏡(インデックスミラー)と水平鏡(ホライゾンミラー)は儀面(本体)と直角になっていなければならない。

確認し調整する方法はメーカー/製品によって異なるので、それぞれの説明書を見て確認する必要があるが、たとえば、動鏡が直角かどうかは「鏡に映る弧と直接に目で見える弧が直線になっていれば直角、屈折していれば直角ではない」といったことでわかる。近くに調整ネジ(または類似の仕組み)があるはずなので、それで調節する。

水平鏡の直角は普通に縦にして持ったときの「水平線と映像が一直線になっている」状態で、そのまま六分儀を倒していって水平にしてもなお「一直線」であれば直角、そうでなければ直角ではないので、ネジ等で調整する。

(2)器差(インデックスエラー)の改正

指標棹(インデックスアーム)を弧の00’に合わせたときに、動鏡と水平鏡は平行になっていなければならない。

指標棹(インデックスアーム)を00’に合わせて、水平線を見る。
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こうなっていればOK。
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こうなっていれば調整ネジで一直線になるようにする。

さらに正確さを確認するには、そのままの状態で六分儀を傾けて、なおかつ一直線になっているかチェックする。必要に応じて調節する。
ただし、どう調節しても段差が消えない場合は、マイクロメータで指標棹を動かして一直線にし、その時の角度をメモしておき、後で計算により加減する。

B.調整終了後、実際に天体の角度を測る。
太陽を見る場合はかならず濃いシェードを使うことを忘れないように。

ヒント: 体がふらふらしない場所や体勢を確保し、天体のおよその高さを推測して、あらかじめ六分儀をその角度にしておくと、割と楽に天体と水平線の両方を捕らえることができる。
望遠鏡に水平線と太陽の両方が入ったら、マイクロメータで微調整して位置を合わせる。
sunandhorizon
普通はこのように太陽の下辺を合わせる。

C.目盛りを読む。弧(アーク)は度単位なので、それ以下はマイクロメータとバーニャで読む(0.2’単位)。目盛りの中間は比例させて読む。

4-4 人工の水平線を使う

実際に海に出ると、太陽などの天体は見えるのに水平線がはっきりしないことはよくある。代表的な例は海霧だが、それに限らない。

で、そういうときに便利なのが人工水平線 (アーティフィシャルホライゾン)だ。
専用の器具がある。
多少の差はあるが、大体はこんな形をしている。
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ま、洗面器のような容器に水を入れて、水面を通して太陽を見ても測定可能だが、風などで水面が揺れると映った像も揺れるので、専用の方が使いやすい。

仕組みはこうだ。
artificialhorizon
六分儀と人工水平線に差しこむ太陽からの光線は平行とみなすことができる。
水面の入射角と反射角は等しいので、●はすべて同じ角度になる。
つまり、六分儀で測定した角度を2で割ると天体の高度になる。

これは水平線の見えない陸上で六分儀による天体の高度観測の練習にも使える。
この場合、高度改正で、眼高による改正は不要になる。

1-3 天測航法に必要なもの

天測に必要な道具はいろいろあるが、なければ話にならないという必須のものと、あれば便利かな(もっと正確になるかな)というものの二種類がある。まずリストを示し、その後で説明を加える。
必須のもの
1.正確な時計(クロノメーター)
2.六分儀(セクスタント)
3.天測暦(航海暦)
4.海図(航海海域に応じて)
5.方位磁石(コンパス)
6.天測計算表(米村表など)

 

次に、あれば便利なもの

7.関数電卓(またはパソコンの表計算ソフト)
8.位置決定用図
9.星図盤

順に説明していこう。

1.クロノメーター
航海用の精密な時計を指し、古くは時辰儀(じしんぎ)とも呼ばれた。

大航海時代以前から、いかに正確な時計を開発するかは航海の歴史だけでなく、科学史でも重要なテーマであり、これだけでも分厚い本が何冊も書かれている。
とはいえ、いまどきの水晶発振(クォーツ)の腕時計や電波時計(国内沿岸)は、大航海時代の最先端の時計と同等以上の精度があるので、クロノメーターの代用として十分な機能がある。
というより、揺れる小型船での観測誤差はかなり大きく、それより時計のずれの方がずっと小さいので、普通の時計でも実質的に問題はない。
時間は、グリニッジ標準時と船上での生活に必要な現地時間用に二つ用意するか、デュアル表示ができればなおよい。

2.六分儀
太陽などの天体について水平線からの角度(高さ)を測定する道具。
正確な高さを知るには、きちんと較正された正常に作動するものがほしい。日本では玉屋(現タマヤ計測システム)の製品が有名で、TAMAYAといえば六分儀の代名詞のようになっている。

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太平洋周航中、六分儀を使って太陽の高度を測定するジャック・ロンドン(スナーク号にて)

とはいえ、かなり高価なので、使い方を覚えるのが目的なら、プラスチック製の廉価版(Davisのマーク15や25など)という選択枝もありだ。コロンブスの時代は六分儀などまだなかったので、新大陸発見につながる四次にわたる航海でも、六分儀の前身の四分儀やアストロラーベという器具を使っていたとされている。それも試験的なレベルにとどまり、現存する航海日誌を読むかぎりでは、ほとんど推測航法(DR)を用いていたようだ。これについては第四章で説明する。

というわけで、プラスチックと馬鹿にすることなかれ。

経験を積んだベテランの航海士が定評のある六分儀を使い、帆走しながら上下左右に揺れる小さなヨットで測定した場合と、あまり経験のないアマチュアが揺れをほとんど感じない大型の豪華客船でプラスチック製の六分儀を使って測定した場合を比べても、そう大きな差は出ないのではないか――というより、足下が安定している分だけ「アマチュア+プラスチック製の六分儀」の方が正確な数値が得られるのでは――と思わせるくらいの精度はある(何度も言うが、実際の航海ではGPSの併用は必須)。

これがないときはどうするか?

どうにもならない。

とはいえ、サバイバルの状況では、いろんな道具を使っておおよその高さを知ることはできる。

全長七メートル弱のヨットで大西洋横断中に遭難したスティーブン・キャラハンは、救命イカダで漂流中、鉛筆三本を組み合わせて三角形の簡易測定器を自作して太陽の高さを測った。時間は腕時計でわかる。
だいたいの高さとだいたいの時間がわかれば、だいたいの場所の検討くらいはつく。
それを航法と呼べるかは別の問題だが。

その意味では、自分の体を使うというのが究極の測定器になる。

腕を伸ばし、指を横向きにして水平線に平行にしてみよう。
指一本の幅が二度
握りこぶしを作ると、親指から小指までの幅が十度
親指と人差し指をめいっぱい開くと十五度、になる。

個人差もあるが、そう極端には違わないはずだ。

3.天測暦
地球は完全な球体ではなく、地軸は太陽に対して傾いているし、自転も厳密には1日24時間ではない。回転速度も一定ではなく早くなったり遅くなったりしている。
そのため、観測で得られた値は必要に応じて補正(改正)してから計算に用いなければならないが、天測暦には、それに必要な1日ごとのデータが記載されている。
それぞれの天体の運行について、1日ごとの位置など、膨大な観測と計算にもとづくデータをまとめたものが天測暦で、開くと、両ページに数字の詰まった表が並んでいて、とっつきにくい印象を受ける。
こんな感じ。
almanac-1a

太陽、惑星(金星、火星、木星、土星)、月、それに恒星(北極星やシリウスなど数十個)の位置が、1日1ページの割で掲載されている。データの読み方さえ理解しておけば、あとは必要に応じて機械的に数値を拾うだけだ。

有料ではあるが、日本では毎年夏頃に、翌年分が刊行され、海図と同じく、日本水路協会のサイトで購入できる。
http://www.jha.or.jp/shop/index.php?main_page=product_info_js2&products_id=3674

当然のことながら英語版(Nautical Almanac)も、複数の国で刊行されている(アマゾンなどで購入できる)。

英語版については、オンラインで複数のサイトから入手することも可能だ(こちらは無料)。
http://www.nauticalalmanac.it/en/navigation-astronomy/the-nautical-almanac.html

4.海図
これは説明するまでもないだろう。
山歩きする人にとっての国土地理院の地形図のようなもので、航海する海域全体が見わたせるものと、島で錨泊地を探すための大縮尺の詳しい海図の両方があれば一番よい。
加えて、海図上で距離を測るためのディバイダ(製図用コンパスの両方の足が針になったもの)と定規、鉛筆、消しゴム。

定規は日本では二枚の三角定規を使うのが一般的(井上式という専用の定規がある)。一定の角度の直線を平行移動させるだけだから、製図用など大きめの三角定規でもよい。欧米では平行定規を使うことが多い。

5.方位磁石
天測はしなくても、船には絶対に必要なもの。注意すべきなのは、磁石の指す北(磁北)と北極点(真方位の北)には少しずれがあること。これを偏差という。
海図には、真方位と磁針方位を同心円で描いた図が必ず印刷してある。これをコンパスローズという。この偏差は年ごとに変化するが、その割合も海図に書いてあるので、海図の作成年と現在に差がある場合は、さらに年数分追加/削減する必要がある。
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上のコンパスローズでは内側の磁針方位の北を指す線に「7°10’W  20** (1’5W)」と書いてあるが、磁針の北を指す方向が20**年の段階で真方位から7°10’西側にずれているいう意味である。カッコ内の数値はその年から1年ごとに1’5度ずつ西にずれていくことを示している。海図の刊行された年から2年後であれば7度10’に3’(1’5×2)を加える。

また、磁石はエンジンなどの金属が近くにあると影響を受ける。これを自差という。これは、船の向いている方角によっても違ってくるので、東西南北とその中間の八方位について、それぞれ自差がどれくらいあるのか、あらかじめ確かめて表を作っておくことも大切。

海の上で、実際に海図上で方向が確定できる見通し線を見つけて、船をその場でぐるっと360°回転させながら記録していくわけだが、このあたりのことは天測以前の航海術の話になるので割愛。
ここでは方位磁石(コンパス)の指す方角では、偏差と自差の分を考慮して修正しなければならない、ということだけを覚えておこう。

6. 天測計算表

天測に必要な計算では、関数電卓を使うか、表計算などのパソコンソフトで計算式を作っておいて、観測した値だけ入力すれば自動的に結果が出るようになっていることが多い。
天測計算表は、そうした何種類もの計算結果をあらかじめ一覧表にしたものだ。
天測計算表と位置決定用図は、上記の海図を販売しているところ(日本水路協会の海図ネットショップ)で購入できる。
天測暦と異なり、計算表は一冊あれば毎年購入する必要はない。

子午線高度緯度法では紙と鉛筆を使った初歩的な計算だけで結果が出るし、正午の太陽の観測による位置測定では、7以下については別になくてもかまわない。

こう言い切ってしまうと、反論もあるだろうが、実は一口に天測といっても、時代によって大きく異なっているのだ。

海員学校や航海士の養成課程で天測の訓練を受けた人にとっては「天測=位置の線航法」というイメージが強いが、そもそも「天体の方位と角度が観測者の位置を示している」ことが発見されたのは十九世紀半ばであり、それを元にした位置の線航法が確立され広く使用されるようになったのは、十九世紀後半から二十世紀にかけてのことにすぎない。

つまり、大航海時代のコロンブスやマゼランも、日本に鉄砲やキリスト教を伝えた南蛮船も、さらに時代が下って太平洋をくまなく周航してハワイを発見したジェームズ・クックも、この「位置の線」という概念は知らなかったし、当然のことながらそうした観測もしていなければ、そうした航法を用いてもいなかった。

位置の線航法は、ある意味で天測航法の完成形であり、外洋航路の航海士には必須の知識と技術なので、最後に取り上げる(第七章)が、目的が単に太平洋や大西洋を横断するとか、日本からハワイに行くという程度のことであれば、そうした知識がなくても可能であるのは間違いない。

というか、位置の線航法では、現実問題として、三角関数の計算や天測計算表など必要な知識や道具が一気に増えてしまうため、急にハードルが高くなってしまう。

7.星図盤
天測暦にも簡単な星を示す図は載っている(恒星略図と惑星位置図)。
とはいえ、現実に小さな船で、(ヨットはベテランでも天測は)アマチュアレベルの人に測定可能なのは北極星の観測くらいだろうから、あれば夜のワッチで星を眺めて退屈しのぎができるくらいか。
というのも、昼間は星が見えないし、夜は水平線が見えないわけで、両方が見えるのは、夜明けと夕方のごく短い時間帯のみ。しかも、揺れている船上で小さな星をレンズの中に捉えるのは至難の技だ。

ここで、もっと本格的に勉強したいという人のために、定評のある参考資料を紹介しておこう。
手元にある本を並べてみた。
referencebooks
左から、定番の『天文航法』長谷川健二著 海文堂
中央は英語の本で、
“CELESTIAL NAVIGATION FOR YACHTSMEN” Mary Blewitt著 International Marine/McGraw-Hill Book
右が『誰にもわかる漁船天測法』佐藤新一著 海文堂

手元には天文航法は昭和の版と平成の版の2冊、漁船天測法は最初の版と改訂新版の2冊があり、新しい版ほど、日本語として読みやすくなっている(「漁船…」はとうの昔に絶版)。
英語のものはタイトル通り「ヨット乗りのための天測航法」そのまま。必要最小限のことだけを説明し、69ページしかない。いちど基礎的な知識を頭に入れてから整理するのにいいが、いきなり読み始めたら、かえってわかりにくいかも。

次回から実践編。