人生の書 - 考える力(4) ジェームズ・アレン

考える力(4)

とはいえ、自分を取り巻く状況は非常に複雑で、思考はとても深いところまで根を張り、幸福の条件は人によって大きく異なってもいるため、その人の魂全体については(本人にはわかっていたとしても)その人の人生の外的態様だけでは他者には判断できない。ある方向では正直であるのに貧困に苦しんでいる人がいる一方で、ある方向では不正直であるのに裕福な人がいるかもしれない。とはいえ、よくあるように、そこから、正直だから失敗し不正直だから成功したという結論を導きだして判断するのは皮相的にすぎる。というのも、そういうとらえ方自体が不正直イコール腐敗、正直イコール善という仮定に基づいているためである。より深い知識と幅広い経験という視点から見れば、そのような判断は誤りだとわかる。不正直な人にも他者にはない立派な長所があるかもしれないし、正直な人であっても他者にはない悪いところがあるかもしれない。正直な人は自分の正直な考え方のもたらす結果を刈りとって行動するし、不正直な人も同様に自分自身にとっての苦しみと幸福を得るのだ。

自分は自分の美徳のために苦しんでいると思いこむのは虚栄心を満足させてくれるが、人は自分の精神から不快な、苦い、不純な考えすべてを根絶し、自分の魂から罪深い汚点すべてを洗い流してはじめて、自分の苦しみは自分の悪癖ではなく自分における善の結果であり、最高の完全性が自分の精神と生活の中で機能していること、つまり、絶対的に正しく、悪に対するに善をもってし、善に対するに悪をもってする偉大な法則というものを発見し、自分はまだそこにはとても到達していないが、その途上にあると宣言できるようになるのだ。そのことをわかった上で自分の過去の無知と盲目とを振り返ってみて、自分の人生が現在においても過去においても常に正しく命じられたものであり、善も悪も含めて自分の過去の体験はすべて、進化しているもののまだ発展途上にあることを示していると知るに至るわけだ。

よい思考と行動が悪い結果を生じさせることはない。悪い思考と行動がよい結果を生じさせるということもない。つまり、トウモロコシからはトウモロコシ以外の何かが生じることはないし、イラクサからはイラクサ以外の何も生まれない。人は自然界においてはこの法則を理解している(この作用は単純で例外がない)が、精神や倫理の世界でそれを納得している者はほとんどいないし、従って受け入れるようともしない。

苦しみは常にある方向における誤った思考の結果である。個人は自分自身と調和し、自分という存在の法則に従っている。無益で不純なものすべてを浄化し焼きつくすことが、苦しみを最大限に活用する唯一の道である。浄化すれば苦しみは消えていく。不純物を取り去った後で金を燃やそうとしても無駄なように。完璧なまでに浄化された賢明な存在には苦しみ自体がないのだ。

人が苦しみと遭遇する外的状況は、その人が自身の精神と調和していない結果である。人が祝福される外的状況は、その人が自身の精神と調和している結果である。物質的富ではない祝福は、正しい思考で得られる。物質的富が不足しているわけではない不幸は、悪い思考から来る。呪われているのに金持ちの人がいるかもしれない。祝福されているのに貧しい人がいるかもしれない。祝福と物質的富は、富が正しく賢明に用いられたときに結びつくだけである。貧者が自分の運命について主に不当に課せられたとみなしている限り、不幸になるだけだ。

貧困と放縦は不幸の両極端である。どちらも同じように不自然で、乱れた精神の結果である。人は、幸福で健康で豊かな存在になるまでは、正しい状況にないとも言える。幸福、健康、豊かさは、自分の精神と外的状況とがうまく調和している結果である。

人は泣き言を言ったり悪態をついたりするのをやめ、自分の人生を制御している隠された正義を探し求めるようになったときにのみ、人として存在するようになる。その制御している要素に自分の精神を適応させ、自分の置かれた条件を理由に他者を非難するのをやめ、強く気高い考えを自分自身に作りあげていく。自分を取り巻く状況に文句を言うことをやめ、さらに急速な進歩に役立つものとして、自分自身のうちに隠れている力と可能性を発見する手段として、それを活用するようになるのだ。

万物を支配する原則は、混乱ではなく法則である。生命という魂と物質は、不正義ではなく正義によるのである。精神という政府を形成し動かす力となるのは腐敗ではなく公正である。従って、万物が正しいと知るには、人は自分自身を正しくせざるをえない。自分を正しくしていく過程で、物事や他の人々に対する自分の考えが変わるにつれて、自分にとって物事や他の人々も変わっていくのを発見することになるのだ。

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