スナーク号の航海(6) ジャック・ロンドン著

だが、このエンジンについては、これだけではない。とても強力なのだ。ぼくらはか弱い男二人と女性一人。アンカーを手で持ち上げたりすれば心臓も背骨もいかれてしまうだろう。そういう仕事はエンジンにさせればいい。というわけで、エンジンのパワーをどうやって前方のウインチまで伝達するかという問題が出てくる。そして、この問題をすべて解決するために、機関室や調理室、浴室、個室、キャビンに対するスペースの割当を再検討し、全部やり直すことになる。それで、エンジンを移すときにニューヨークのメーカーに電報を打った。こんな奇妙な文面だ。「トグルジョイントはやめた スラストベアリングに変更 フライホイール前縁から船尾材の面までの距離は十六フィート六インチ」

細かいことに神経を使うのが好きなんだったら、操舵装置をベストなものにしようとあれこれ思案したり、艤装の調整に旧式のラニヤード(紐)を使うかターンバックルを使うか決めようとしてみたらどうだい。ビナクル(羅針儀の架台)を船梁中央にある舵輪の前に置くべきか、舵輪の前の一方の側に置くべきか? ──熟練した船乗りの間でも議論のあるところだ。それから、千五百ガロン(約五千六百リットル)ものガソリンという問題もある。それを安全に貯蔵し配管するにはどうしたらいいのか? ガソリン火災に最適な消火器はどのタイプだ? 救命ボートとその保管場所という大問題もある。これが終わっても、コックや給仕係をどうするかという、悪夢になりかねない問題に直面する。小さい船だし、そこに皆が押し込まれることになるのだ。陸上での、男にとっての給仕してくれる女の子という問題など、これに比べたら物の数ではない。給仕を一人選んで、その分だけ問題は減ったと思ったら、そいつは恋に落ちて辞退してしまった。

そんなこんなで手がかかるのに、どうすれば航海術を覚える時間ができるっていうんだ──こうした問題で引き裂かれていて、問題を解決するための金をどこで稼ぐというのか? ロスコウもぼくも航海術のことは何も知らないのだが、そうこうしているうちに夏が過ぎた。出発が迫っていたが、問題の霧はますます濃くなっていくし、金庫は空っぽだ。まあ、とにかく、シーマンシップ(船舶操縦術)を学ぶには何年もかかるし、ぼくらはどっちも船乗りではある。時間がなければ本や教本を仕入れておいて、サンフランシスコとハワイの間の大海原で独学できるだろう。

スナーク号の航海には、不幸にも混乱する問題がもう一つある。副航海士のロスコウはサイラスR・ティードの信奉者なのだ。サイラスR・ティードは現在一般に受け入れられているのとは別の宇宙観を信じていて、ロスコウは彼の見解に同意している。つまり、地球の表面は凹面になっていて、人間はその中空球の内側で暮らしているというなんてことを、なぜか信じこんでいるのだ。というわけで、ぼくらは一隻の船スナーク号で帆走するつもりなのだが、ロスコウは内側の世界を旅することになるし、ぼくは外側を旅することになる。それはともかく、ぼくらは航海が終わるまでには、いずれ心も一つになるだろう。ぼくは彼を外側を旅させる自信があるし、彼も同様にサンフランシスコに戻ってくる前にはぼくが地球の内側にいることになると確信しているのだ。彼がどうやってぼくに地殻を通り抜けさせるつもりなのか知らないが、なんにしてもロスコウは優れた技能を持っているのだ。

追伸──エンジンが来た! エンジンを手に入れ、次は発電機、蓄電池とくれば、製氷機はなぜないんだ? 熱帯では氷だろう! パンより必要だ。というわけで製氷機を探すはめになる! いまやぼくは化学に首を突っ込んで唇は荒れるし、心はくじけるしで、どうすれば航海術を勉強する時間を見つけられるっていうんだろう?

[建造中のスナーク号の船体]

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[第1章 了]

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