スナーク号の航海(12) ジャック・ロンドン著

そこで、時間もお金もかけた、水密で頑丈なコンパートメントの出番なのだが──結局、これが水密ではなかったのだ。浸入した水は空気のように部屋から部屋へと移動した。おまけに、コンパートメントの背後から強いガソリン臭がしたので、そこに貯蔵していた六個のタンクのうちの一つか複数のタンクが漏れているのではないかと疑った。実際にタンクから漏れていて、それがコンパートメント内に密閉されていなかったのだ。さらに、ポンプとレバーと海水弁を備えた浴室だ──これも最初の二十四時間で故障した。ポンプを動かそうとすると、片手の力だけで頑丈なはずの鉄製レバーが折れてしまった。浴室はスナーク号で故障第一号になった。

スナーク号の鉄部は、材質はともかく、へにょへにょだと証明された。エンジンベッドのプレートはニューヨークから取り寄せたのだが、ぼろぼろだった。サンフランシスコから取り寄せたウインドラスの鋳物や歯車も同様だった。ついには、索具に使われている鍛鉄までも最初に負担がかかったときにあらゆる方向にちぎれてしまった。鍛鉄だぜ。それがマカロニみたいに折れてしまったんだ。

メインセールのガフ(斜桁)のグースネックが折れて短くなったので、ストーム・トライスルのグースネックと交換したが、二つ目のグースネックも使い始めて十五分で壊れた。いいかい、これって荒天用のストーム・トライスルのグースネックなんだ。嵐のときに頼りにしなきゃならないやつなんだ。グースネックの部分をぐるぐるに縛りつけてやったので、スナーク号は今はメインセールを折れた翼のようにひきづって帆走している。ホノルルでは本物の鉄が手に入ると思う。

奴らはこうやってぼくらを裏切り、ザルみたいな船で大海原へと送り出してくれたってわけだ。ところが、神様はちゃんとぼくらのことに気を配ってくれていた。凪が続いていたのだ。船を浮かせておくために毎日排水ポンプにかかりきりになっていなければならなかったが、船上で見つかる巨大な鉄のほとんどよりも木の爪楊枝の方がずっと信頼できるということもわかった。たまにスナーク号の頑丈さと強さがかいま見えたりもしたので、チャーミアンとぼくはスナーク号のすてきな船首をますます信頼するようになった。他にそういうものがなかったのだ。これが、ありえない、とんでもない話のすべてだが、少なくともあの船首だけは期待を裏切らなかったということになる。そうして、ある晩、ヒーブツーを開始した。

どう説明したらいいんだろう? まずヨットに不案内な人のために説明すると、ヒーブツーっていうのは、強風に備えて縮帆し、帆の展開具合や向きを調整して、船首を風や波の方に向けておく操船術の一つだ。風が強くなりすぎたり波が大きくなりすぎたとき、スナーク号のような船はヒーブツーでしのぐことができる。そうしておけば、船上では何もすることがない。誰も舵を持つ必要はないし、見張りも不要だ。全員が下に行って眠るかトランプをやったっていい。

ロスコウにヒーブツーした方がいいかなと声をかけたときは、ちょっとした夏の嵐の半分ほどの風が吹いていた。夜が近づいていた。ぼくはほぼ一日、舵を持っていたし、下にいると船酔いするので、ロスコウ、バート、チャーミアンの全員がデッキに出ずっぱりだった。大きなメインセールはすでにツーポンリーフ(二段階縮帆)していた。フライングジブとジブは取りこんでいたし、フォアステイスルは縮帆し、ミズンセールも取りこんだ。この頃になると、フライングジブのブームは波をすくうようになり、折れてしまった。ぼくはヒーブツーするために舵を切った。その瞬間、スナーク号は波の谷間に転がりこんでいた。船は谷間で揺れ続けた。ぼくは舵輪を押さえつけた。船は谷間から動こうとしなかった(心やさしき読者よ、波の谷間とは船にとって最も危険な場所なのだ)。スナーク号は谷間で横揺れしているだけだ。風に対して九十度に向けるのが精一杯だった。ぼくは、もう少し風の来る方に船首を向けようとして、ロスコウとバートにメインシートを引きこませた。スナーク号は波の谷間から抜けられずにいて、両舷は交互に下になったり上になったりしている。
訳注

メインセール(主帆):メインマストの後ろ側についている大きな帆。
ミズンセール:ミズンマスト(後檣)の後ろ側についている帆。
ジブ(前帆):マストの前にある帆。
フライングジブ:複数のジブがある場合、一番前のジブ。
ストームトライスル:荒天用の面積は小さいが頑丈な帆。
ガフ(斜桁):四角形の帆を張るため帆の上縁にある円材。
ブーム(帆桁):帆を張るため帆の下縁にある円材。
グースネック:マストとガフやブームの先端の接続部。

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