スナーク号の航海 (14) - ジャック・ロンドン著

サンフランシスコのボヘミアン・クラブには、何人かのベテランのヨット乗りのうるさがたがいた。なぜ知っているかといえば、スナーク号の建造中に連中がケチをつけたと聞いたからだ。スナーク号には一つだけ致命的な問題があるということだった。これに関しては連中みなの意見が一致していた。具体的には、スナーク号は風下への帆走(ランニング)では使い物にならないということだった。連中によれば、スナーク号はあらゆる点で申し分ないが、強風の吹きすさぶ大海原でランニングさせることは無理だろう、ということだった。「ラインズだ」と、連中はもったいぶって説明した。「欠点は船型だ。単純に、あれじゃランニングできるわけがない。それだけだ」 スナーク号にあのボヘミアン・クラブのうるさがたのベテランが乗っていて、あの強風が吹きあれた夜の走りを体験してくれていたら、連中が口をそろえた致命的という判断はくつがえったはずだ。ランニングだって? それはスナーク号は完璧にやってのけたぜ。連中は、ランニングって言ったっけ? スナーク号はバウからのシーアンカーを引きづったまま、締めこんだミズンで風下に走ってくれた。ランニングは無理だって? ぼくがこの原稿を書いている時点で、ぼくらは北東の貿易風を受けて六ノットで風下に帆走しているところだ。ランニングでは、きわめて規則正しい波にうまく乗っている。舵は誰も握っていないし、舵輪を縛ってもいないが、スポーク半分ほどのウェザーヘルムをこなせるよう当て舵はしてある。正確に言うと、風が北東から吹いていて、スナーク号のミズンは巻き取り、メインセールは右舷側に出し、ジブシートは一杯に締めてこんでいる。スナーク号の進路は南南西だ。とはいえ、四十年もの海の経験があり、操舵せずに風下帆走できる船はないと思いこんでいる連中もいるのだ。連中がこの原稿を読んだら、ぼくを嘘つきと呼ぶだろう。スローカム船長が世界一周したスプレー号についてぼくと同じことを言ったときも、連中はそう呼んだのだ。

スナーク号を将来どうするかについては、まだ決めていない。わからない。ぼくにお金か信用があれば、ちゃんとヒーブツーできるような船をもう一隻建造したいところだ。とはいえ、ぼくの資金はほぼ尽きている。現在のスナーク号で我慢するか、ヨットをやめるか――やめることなどできない。となれば、ぼくはスナーク号を船尾を前にしてヒーブツーさせるようにせざるをえないと思う。それを試してみようと次の嵐を待っているところだ。自分ではうまくいくと思っているのだが、すべては船尾が波にどう反応するかにかかっている。そのうちに、ある朝、中国の近くの海で、年老いた船長が凝視し、信じられないように目をこすってまたじっと見つめて、風変わりなスナーク号に非常によく似た小さな船が船尾を前にしてヒーブツーして嵐を乗り切っているところを目撃することになるかもしれないぜ。

追伸 この航海を終えてカリフォルニアに戻ったとき、スナーク号の水線長は四十五フィートではなく四十三フィートだとわかった。これは、造船所がテープラインまたは二フィート・ルールという条件を教えてくれなかったためだ。
訳注
ウェザーヘルム: 通常の帆走で船が自然に風上方向に切りあがろうとする傾向のこと。逆はリーヘルムと呼ぶ。この場面では、船を狙った方向に進ませるため、舵輪をスポーク一本分だけ風下側にまわしてある(これを当て舵という)。

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