スナーク号の航海 (24) - ジャック・ロンドン著

これがスナーク号での最初の陸地視認の顛末だ──なんというランドフォールだったことか。ぼくらは二十七日間、何もない大海原にいたので、世の中にこんなに生命に満ちあふれているとは思いもよらなかった。頭がくらくらしてしまい、すぐには、すべてを受け入れられなかった。ぼくらは眠りからさめたリップ・ヴァン・ウィンクルみたいに、まだ夢を見ているようだった。こちらには波が打ち寄せる青い海があり、はるか水平線をこえて青い空まで続いていた。もう一方の側では、近づくにつれて隆起したエメラルド色の大波が砕け散って雪のように白いサンゴの浜辺に舞っていた。ビーチの向こうにはサトウキビを栽培する緑の大農場が山へ、急峻な斜面へと続いていた。その先は荒々しい火山の稜線となり、熱帯地方の夕立が激しく降り注ぎ、頂上には貿易風にたなびく途方もなく大きな雲がかかっていた。いずれにせよ、とても美しい夢ではあった。スナーク号は向きを変え、押し寄せるエメラルド色の波の方に船首を向けた。波に大きく持ち上げられたかと思うと、轟音とともにたたき落とされた。反対側には長く続く淡緑色の岩まじりの砂州が牙をむき出していて、恐ろしい光景だった。

と、ふいに陸地が、多彩なオリーブグリーンに満ちあふれた陸地から腕が差し伸べられ、スナーク号をすっぽり抱えこんでくれた。青い空の下で岩礁を抜けるときには、エメラルド色の波による危険はなかった──何もなかった。あったのは暖かくやわらかな大地と静かな礁湖、現地の日に焼けた子供たちが泳いでいる小さなビーチだけだ。大海原は姿を消していた。スナーク号から錨を落とすと、チェーンがガチャガチャ音を立てて錨鎖孔から出ていって、浅い平らな海底に食いこみ、船の動きがとまった。そこは、現実として受け入れることができないほど美しく、不思議なところだった。この場所は海図ではパールハーバー(真珠湾)と記載されていたが、ぼくらはドリームハーバー(夢の入り江)と呼んだ。

小さな船がやってきた。ハワイヨットクラブの人たちだ。心のこもったハワイ流のもてなしで挨拶と歓迎に来てくれたのだ。この人たちはごく普通の人間、血も涙もある人間で、ぼくらの夢をこわそうとする人種とは違っていた。ぼくらの記憶にある最後に会った合衆国本土の人間は保安官やうろたえた小金持ちの商売人たちだったが、煤塵や炭塵まみれで悪臭ふんぷんとしていて、薄汚れた手でスナーク号をなでまわしては、この航海をやめさせようとしたのだ。しかし、ぼくらに会いに来たこの人たちはクリーンだった。顔は健康的に日焼けし、札束に目をぎらつかせてもいなかった。というより、彼らはぼくらの夢は現実だと証明しにきてくれたのだ。不愛想だが、しっかりと受けとめてくれた。

そこで、ぼくらは彼らと一緒に穏やかな海から緑豊かな陸地へと向かった。小さな桟橋に上がり、夢はさらに強固なものとなった。二十七日間というもの、ぼくらは海に浮かんだ小さなスナーク号で揺られていた。この二十七日間、一瞬たりとも動きがやむことはなかった。この絶え間ない動きが体にしみこんでいた。体も脳も揺れていたが、この小さな桟橋に上がってからも揺れは続いた。当然のことながら、ぼくらはそれを桟橋のせいにした。よくあるパターンだ。ぼくは桟橋にそっておおまたで歩こうとして海に落ちそうになった。チャーミアンを見ると、彼女の歩き方もひどかった。桟橋は船の甲板と変わりがなかった。持ち上がったかと思うと傾き、うねりを受けて上昇しては沈んだ。手すりなどないので、チャーミアンとぼくは落ちないようにするので精一杯だった。こんな妙な桟橋は初めてだった。確かめようとするのだが、そのたびに横揺れは消えてしまう。ぼくが目をそらしたとたん、すぐにスナーク号みたいに揺れ出すのだ。世界がひっくり返るかと思うくらい派手に揺れた瞬間、長さ二百フィートほどの桟橋は巨大な向かい波に突っこんだ船の甲板のように見えた。

出迎えてくれた人たちの助けを借りて桟橋を渡りきり、ようなく陸に足をおろした。とはいえ、陸地も桟橋と似たようなものだった。足で踏んだその瞬間、地面は目の届く限りが一方に傾き、ゴツゴツした火山の稜線もはっきり見えたし、斜面の上には雲も見えた。大地は不安定で、がっしりした地盤がなかった。でなければ、こんなに揺れるわけがない。上陸した足元以外の場所はすべて現実のものではないようだった。夢だった。変化の激しいガスのように今にも消えてしまいそうだった。おそらく自分の方がおかしいのだろう。めまいがしているのか食当たりでもしたのだろうかとも思った。しかし、チャーミアンを見ると、彼女の歩き方も妙だったし、彼女がふらついて横を歩いていたヨット乗りにぶつかったのが見えた。声をかけると、彼女も「地面が変なのよ」とブツブツ文句を言っていた。

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じっとしていない桟橋

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熱帯の恵み

訳注
リップ・ヴァン・ウィンクル: 米国の作家ワシントン・アービングが1820年に発表した短編集『スケッチ・ブック』所収の同名短編(オランダ移民の、眠っているうちに二十年が経過してしまったという伝承譚)の主人公。森鴎外が1889年(明治22年)に「新世界の浦島」と題して訳出している(三年後に刊行された単行本『水沫(みなわ)集』では「新浦島」と改題)。

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