スナーク号の航海 (44) - ジャック・ロンドン著

日光が灰色と紫がかった雲のベールを通して射しこみ、海面は頻発する激しい豪雨にたたきつけられてフラットになったまま泡立っていた。雨が降り風が吹きすさぶ海面のうねりとうねりの谷間を白い水しぶきが満たし、海面はさらに平らになったが、海は前にもまして激しく襲いかかろうと、風と波が収まるのを待っていた。男たちが起き出して甲板に出てきた。そのなかでもハーマンは、ぼくが風をとらえたのを見てニヤッと笑った。ぼくは舵をウォレンに預け、船室に降りようとした。厨房の煙突が波に流されそうにしていたので、それをつかまえようと立ち止まった。ぼくは裸足だったし、つま先はなんでもつかめるようきたえてもあったのだが、手すり自体が緑の海面に没していたので、ぼくはふいに海水に洗われた甲板で尻餅をついてしまった。ハーマンは、それを見て、ぼくがなぜその場所に座ることにしたのかと、妙に落ち着いた口調でたずねた。すると、次のうねりで奴も不意打ちをくらって尻餅をついた。スナーク号は大きく傾き、手すりはまた海水をすくった。ハーマンとぼくは貴重な煙突をつかんだまま風下舷の排水口のところまで流された。ぼくはそれからやっと船室に降りて着替えたのだが、そこで満足の笑みを浮かべた――スナーク号が東進しているのだ。

いや、まったく退屈するなんてことはなかった。ぼくらは西経百二十六度まで苦労して東進し、そこから変向風に別れを告げて赤道無風帯を横切って南へと向かっていた。ここではずっと無風のときが多く、風が吹くたびに、それを利用して何時間もかけて数マイル進んでは喜んだ。とはいえ、そんなある日、一ダースものスコールがあり、それ以上の雨雲にも囲まれた。スコールのたびに、スナーク号は横倒しされそうになる。スコールの直撃を受けることもあれば、雨雲の縁がかすめ通ることもあったが、どこでどんな風に襲ってくるか、わからなかった。スコールは雨を伴う突風だが、天の半分をおおってしまうようなスコールが発生し、そこから風が吹き下ろしてきた。が、たぶん、ぼくらのところで二つに分かれたのだろう。船には被害を与えず両側を通り過ぎて行った。そうした一方、何の影響もなさそうな、雨も風もたいしたことがなさそうなやつが、いきなり巨大化して大雨を降らせ、強烈な風で押し倒そうとすることもあった。それから、一海里も風下の後方にあったやつが、いつのまにか背後から忍び寄ってきていることもあった。と、またスコールが二つに分かれてスナーク号の両側を通りすぎようとした。手を伸ばせば届きそうなところをだ。強風には数時間もするとなれてくるものだが、スコールは違っていた。千回目のスコールでも、はじめてのスコールと同じくらいに興味深い、というより、もっと面白く感じられる。スコールの面白さがわからないうちは素人だ。千回もスコールを経験すると、スコールに敬意を払うようになる。スコールとはどういうものかがわかってくるからだ。

一番どきどきするような出来事が起きたのは赤道無風帯でだった。十一月二十日、ぼくらはちょっとした手違いで残っていた真水の半分を失ってしまった。ハワイのヒロを出発してから四十三日目だったので、残っている水も多くはなかった。その半分を失うというのは破滅的だ。割当量から推して、残りの水で二十日は持つだろう。とはいえ、場所は赤道無風帯である。南東の貿易風がどこにあるのか、どこから吹き出しているのかすらわからなかった。

ポンプには直ちにカギをかけ、一日に一度だけ割当分の水をくみだすようにした。ぼくらには一人当たり一クォート(一リットル弱)の水が割り当てられ、料理に八クォート使った。心理状態をみてみると、最初に水が不足していることがわかるとすぐに、喉のかわきにひどく悩まされるようになった。ぼくについて言えば、人生でこんなに喉のかわきを覚えたことはなかった。割り当てられたわずかな水は一息で飲んでしまえそうだったし、そうしないようにちびちび飲むには強い意志が必要だった。それはぼくだけじゃない。みんなが水のことを話し、水のことを思い、眠っているときも水のことを夢に見た。窮地を脱するため近くに水を補給できるような島がないか海図を調べた。が、そんな島はなかった。マルケサス諸島が一番近かったが、赤道を超えた向こう側、赤道無風帯を超えた先にあるのだ。そう簡単にはいかない。ぼくらは北緯三度にいた。マルケサス諸島は南緯九度、経度で十四度も西にある――距離にして一千海里を超えるのだ。熱帯で風がなく、うだるように暑い大海原で苦境に陥っている一握りの生物、それがぼくらだった。

ぼくらはメインとミズン二本のマストの間にロープを渡し、雨が降ったら前の方に雨水を集められるように、大きな天幕を後ろを高くして張った。海上ではあちこちでスコールが通り過ぎていった。ぼくらは、このスコールの動向を一日ずっと、右舷も左舷も前方も後方も見張っていたが、近づいて雨を降らしてくれるものはなかった。午後になると大きなスコールがやってきた。海一面に広がって接近してくる。ものすごい量の雨水が海水に流れこんでいるのが見えた。ぼくらは天幕に注目してずっと待った。ウォレン、マーチン、ハーマンは生気を取り戻した。連中は一団となって索具を持ち、うねりにリズムを合わせながら、スコールを見つめた。緊張、不安、そして切望の念が全身から感じられた。彼らの脇には乾いた空っぽの天幕があった。だが、スコールは半分に割れ、一方は前方を他方は後方を風下へと去っていき、彼らの動きはまた気の抜けたものになった。

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これがジョーズだ

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