スナーク号の航海 (46) - ジャック・ロンドン著

食料貯蔵庫に追加したもので最も歓迎されたのはアオウミガメだ。重さは優に百ポンド(約四十五キロ)はあり、ステーキにしてもスープやシチューにしても、テーブルに並ぶと食欲を刺激してくれた。最後には絶品のカレーになったが、全員が飯を食いすぎてしまったほどだ。このウミガメは船の風上にいた。大きなシイラの群れに囲まれた海面で眠っているようにのんびり浮かんでいた。一番近い島からでも一千海里は離れている大海原での話だ。ぼくらはスナーク号の向きを変え、ウミガメのところへ戻った。ハーマンが銛(もり)を頭と首に打ちこんだ。船上に引き上げると、無数のコバンザメが甲羅にしがみついていた。カメの足が出ているくぼみから大きなカニが何匹かはい出てきた。ウミガメを見つけたら即座にスナーク号を差し向けて捕獲することで、すぐに全員の意見が一致した。

とはいえ、大海原の王様たる魚といえばシイラだ。シイラほど体色が変化するものはない。海で泳いでいるときは上品な淡い青色がかっているが、体色の変化で奇跡を見せてくれる。この魚の色の変化に匹敵するものは何もない。あるときは緑系の色――ペール・グリーン、ディープグリーン、蛍光グリーンに見えるし、あるときは青系の色――ディープ・ブルー、エレクトリック・ブルーなど青系のすべての波長の色になることもある。釣り針にかかると、ゴールドから黄色味が増し、やがて全身が完全な金色になる。甲板に上げると、波長を変えながら、ありえないほどの青系、緑系、黄系の色へと変化しつつ、と、いきなり幽霊のように白っぽくなる。体の中央に明るいブルーの点があり、それがマスのような斑点に見えてくる。その後、白からすべての色を再現しつつ、最終的には真珠母のような光沢のある色になるのだ。

シイラは釣りが好きな人におすすめだ。釣りの対象としてこれほどすばらしい魚はいない。むろん、リールと竿に細い糸が必要だ。それにオショーネシーの七番のターポンフックを結び、餌としてトビウオを丸ごとつける。カツオと同様に、シイラの餌はトビウオだ。稲妻のように襲いかかってくる。まずリールが悲鳴のような音を立て、糸が煙を出しながら船と直角の方向に出ていくのが見えるだろう。糸が足りるかなと長さを心配するまでもなく、何度か続けて空中にジャンプする。四フィートはあるのがはっきりするので、船に引き上げるまで最高のゲームフィッシングが堪能できる。針にかかると、必ず金色に変色する。一連のジャンプは針を外そうとするためだが、跳ね上がるたびに去勢されていない雄の馬のように金色に輝く体をくねらせる、釣った方としては、これほどきらびやかな魚を見れば心臓がどきどきするし、そうならないとすれば、君の心は鉄でできているか心がすり切れているにちがいない。糸をゆるませるな! ゆるんでしまうと、跳ねたときに針が外れて二十フィート先で逃げてしまう。ゆるめるな。そうすれば、やつはまた海中を走り、ジャンプを続けることになるだろう。なおも糸が全部出てしまうのではないかと不安になるだろう。リールに六百フィートの糸を巻いていたが、九百フィート巻いていたらなと思い始めるわけだ。糸が切れないよう細心の注意を払って魚を操っていれば、一時間もの大興奮のはてに、この魚をギャフに引っかけることができる。そんな風にしてスナーク号の船上に引き上げたやつを測ると四フィート七インチ(約百四十センチ)もあった。

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四フィート七インチもあるシイラ

ハーマンの釣り方はもっと散文的だ。竿を使わず手に糸を持ち、サメの肉を使うだけだ。糸は太いが、それでも切れてバラすことがある。ある日、一匹のシイラがハーマン自作のルアーをくわえたまま逃げたことがある。ルアーにはオショーネシーの針が四本もつけてあった。一時間もしないうちに、その同じシイラが別の釣り竿にかかったのだが、四本の針はついたままだったので無事に回収できた。シイラはひと月以上もスナーク号の周囲にいたが、それ以降は姿を消した。

そうやって日がすぎていった。することがたくさんあったので、退屈はしなかった。することがないときは海の景色や雲を眺めていたが、これがまたすばらしくてまったく飽きなかった。夜明けは、ほぼ天頂まで弧を描いている虹の下から昇ってくる太陽は燃えているように荘厳だったし、日没では、天頂までの青い空を背景に、太陽がバラ色の光に包まれた川を残しつつ紫色の海に沈んでいった。反対側では、昼間は日光が海の深いところまで射しこんでいるため青く穏やかで、波一つなかった。後方では、風があるときには白っぽいトルコ石のような泡だつ航跡ができていた――スナーク号が波を乗りこえて上下するたびに船体が作り出す引き波だ。夜には、この航跡は夜光虫で輝いた。クラゲのようなプランクトンがスナーク号が通った跡を示しているのだ。彗星のように長く波うつ星雲の尻尾がずっと観察できたが、海面下でカツオが通過したためにかきまわされて興奮した無数の夜光虫が発光しているのだ*1。また、スナーク号のいずれの側でも、海面下の闇の中で、さらに大きなリン光を発する生命体が電球のように点滅していた。これは、そんなことには無頓着なカツオがスナーク号のバウスプリットの鼻先で獲物を捕らえようとしてプランクトンと衝突して発光させているのだった。
訳注
*1: いわゆる夜光虫は海洋性プランクトンで、刺激に反応して発光する(ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応)。夜の海に青白く光る夜光虫はロマンチックだが、これが大発生すると赤潮として漁業に被害がでることもある。

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