ここでは、本を自分で作りたいという人に向けて、これをきちんと理解し整理しておけば仕上がりに差がでますよというポイントについて取り上げます。
雑な本作りから脱して、出版社の本と肩を並べるものにステップアップするためのヒントとお考えください。
本が好きな人や読書家と呼ばれる人でも、「台割って?」「デザイン先割って何?」という人も多いでしょう。
まあ、知らなくても(お金さえ用意できれば、つまり専門家に委託すれば)自分で書いたものを本にすることはできますが、出版というのは、著者を含めて、関係する人たちの共同作業になるので、思い込みや誤解、早とちりを防ぐためにも、まず全員に共通の指針となる設計図が必要なんです。
その設計図になるのが台割やデザイン先割というわけです。
まあ、基本、印刷・製本時のミスを減らすためなんですが、これをきちんとやっておくと、後の割り付けなんかもすごく楽になります。
小説のように文字が中心のものは、作家さんの原稿が最優先で、それが完成し、校正まですませてから、どう読みやすくするかを考えることになりますが、図や表、写真、イラストの多い実用書や広報誌なんかはそうもいきませんよね。原稿や写真ができてから、それに合わせてページごとに文章や写真を割り付けていくのは大変です。
全部を自分一人でやるつもりだよという人も、頭でわかっていたとしても、一度きちんと紙やファイルに書き出しておいた方が、ミスを確実に減らせます。
というか、まったくミスのない完璧な本を探す方がむずかしいくらいです。
誤字脱字や誤植は校正を繰り返すことで減らせますが、それ以外にも印刷や製本の工程にエラーはつきもので、「まずい」「こまった」の事後処理に追われたりするんですよ。
そういう話は、なかなか表には出てきませんし、今はほとんどコンピュータ処理されるので、問題があればその時点ではねられるので減ってはきているようですけど……
台割とは
台割は、簡単にいうと、目次をさらに詳細にしたようなもの、でしょうか。
各ページに、どういう内容のものを、どういう形で割り当てるのかについて、最初のページから最後のページに至るまでを見やすくまとめた一覧表です。これはエクセルなどで簡単に作れます(サンプルは後出)。
単純な表なので、本のタイトルの次行に、ノンブル(ページ番号)や内容、使用する写真などの図版や色数(カラーかモノクロか)、担当者などを見出しとして書き出しておいて、それ以下の行に必要事項を記入するだけです。
なぜこれが大切なのかというと、たとえば、みなさんが本の原稿を書き上げたとしますよね。コミケ用の20ページのマンガでも300ページの小説でもいいんですが、プリンタで印刷すると最初のページから最後のページまでが順番に印刷されて出てきます。
ところが、本を作る場合の印刷って、そういう一枚一枚に印刷するのとは違っているんですよね。
たとえば、両面に印刷された新聞の折込チラシを作るとしましょう。
これは、表と裏の原稿を用意すれば、両面印刷でそのまま印刷できます。
では、4ページや8ページのパンフレットや小冊子を印刷・製本するとしたらどうでしょう。
仮にA4のコピー用紙で、その半分のA5サイズで4ページのパンフレットを作るとします。
まず、コピー用紙を半分に折ります。当然、A5サイズで4ページ分ができますよね。
縦書きの原稿だとすれば折った辺を右側にしておきます。
1ページから4ページまで番号を振ってみましょう。

それを広げるとこうなります。緑色のラインはパンフレットの背(折れ目、内側は「のど」と呼ぶ)を示しています。

片面に1ページ目と4ページ目、その裏面に2ページ目と3ページ目がきますよね。1、2、3、4と順番に並んでいるわけではないのです。
これをさらに半分に折って、A6サイズの8ページの冊子を作るとしましょう。
広げると、こんな感じ。

どうですか。1と8が隣り合い、同じ面に4と5がありますが、逆さまになってます。裏面も同様です。
つまり、本を作るときって、1ページごとに印刷して綴じるのではなくて、大きな紙に何ページ分もまとめて印刷しておいてから、それを折りたたんでいくのです。すると、不思議なことに、出来上がりは1、2、3、4、5、6とページ順に並んだ冊子になるわけです。
もちろん、ページ同士がつながってめくれない部分は、製本後に機械で端を裁断して切り落とします(オレンジ色のライン)。印刷する時点で、あらかじめ、その分の余白も計算されています。
その処理がやりやすいというのが単行本で四六判が多い理由の一つでもあるんですが、紙のサイズについては、少し後に説明します。
とはいえ、現実には、印刷・製本所にお願いすると、普通の用紙に印刷した原稿の束(あるいはファイル)を渡せば、先方は(そんな面倒くさい説明は抜きにして)「はい、はい」という感じで受けとって、きちんと本にしてくれることが多いんですが、場合によっては台割をくださいと要請されることもあります。エラーがないか確認するにはどうしても必要ですからね。
ちなみに、A4とかB5というのは、用紙のサイズで、A4はA判の大きな紙(A0、原紙や全紙と呼ぶ)を4回折ったサイズで、B5はB判の紙を5回折ったサイズという意味です。
AもBも縦横比は同じですが、B判の方が少し大きいですね。
A0 841mm × 1189mm、B0 1030mm×1456mm
単行本で一般的な四六判の全紙は AやBの全紙よりやや小さいです。四六は折った数ではなく、裁断して32分割した紙のサイズが(端を切り落とした段階で)4寸x6寸になっていることから、そう呼ばれます。
※四六判のサイズは、出版社(版元と呼びます)によって微妙に(ミリ単位で)異なったりします。端をどれくらいの幅で切り落とすかで違ってきたりするからです。
大きさを比較すると、 文庫本(A6) < 四六判 < A5 となります。

これは一例です。出版社や印刷所によって指示する項目が違っていたりします。
ノンブル(ページ番号)とは別に通番(通し番号)があるのは、表紙を含めているからです。
表紙となる紙には本文の用紙とは別の、ちょっと厚い上質の紙を使ったりしますよね。1枚で、表紙の表と見返し、最後にくる裏表紙の表と裏で計4ページになりますが、これには本文につけるページ番号とは別なので、通し番号で処理することになります。
文庫や新書では表紙をめくるとタイトルや目次、本文が続いていますが、上製本の単行本だと、白紙のページや無地のカラーページ(遊びや遊び紙と呼ぶ)があったりします。雰囲気を整えたり高級感を出すためだったりするわけです(電子書籍では、そういうのは逆に空白の無駄なスペースに過ぎないので、割愛しないと読みにくかったりもします)が、そういうものもきちっと指定しておかないと、後で汗をかくはめになることがあります。
記入する内容については、当事者にわかればよいのでメモ程度で十分です。ここに目次を入れて、このページは特集の1、使用する写真はこれ、色数ではカラー(CMYK)かモノクロ(白黒)かなどを指定したりします。
※4CはCMYKのことで、これは印刷するインクの色の要素(三原色のようなもの)です。デジタルデバイスで表示される色は光の三原色(RGB)ですが、それとは似て非なるものなので、色校正も必要になっててきます。電子書籍の基礎知識でも簡単に説明しているので、あわせてご覧ください。
また、雑誌などでは、特集やコーナーの担当者を記載しておくと、問題があったときの確認が迅速にできます。

これは編集の教科書として定番の1つになっている『標準 編集必携』(日本エディタースクール)に掲載されている印刷台割表です。
折、頁、内容の3項目だけで、非常にシンプルです。小説やエッセイ集などは、これで十分でしょう。
※手元の本の一部をそのまま撮影したので見にくいでしょうが、ご了承ください。
折というのは「紙の折り」のことで、たとえば、全紙1枚から32ページを印刷できるとすると、300ページの本だったら、折った紙を10個たばねて製本することになりますよね。その一つ一つに1、2~10と番号を振るわけです。
※本によってきちんと割り切れるとは限らないので、余ったページに自社の既刊本の広告を載せたりすることもあります。
むろん、この台割は自分の環境にあうように変更してかまいません。要は、誤解が生じないように、目安となり、チェックリストの役割をはたすものであればよいわけです。
まあ、このあたりは印刷・製本所との関係で決まったりもしますし、個人で本を作るのであれば、そういうところまでは要求されないでしょうが、知っておいて損はないです。
全体のバランスを見るのに役立つ
これを見ていると、全体的なバランスが把握できます。
ここは長すぎるなとか、ここは重複しているから減らそうとか……すっきりした読みやすい本にまとめるには必須の工程です。
台割は、文字が主体の小説やエッセイ集のようなものであれば、上記のシンプルな表で何の問題もないでしょう。関係者の頭に入ってさえいれば、なくても大きな支障はないかも、です。
とはいえ、どういう作業でも、人間はミスをするものだという前提で工程を組み立てた方が、結局は早道になったりします。テキストが中心ではない写真集や料理のレシピ集とかになると、画像もだんぜん多くなりますし、本を開いた時の見開きで左右のページがどう見えるかも重要ですよね。
そういう場合は一覧表ではなく、見開き2ページ分をセットにした見開きタイプの台割の方が使いやすいでしょう。
16ページの冊子であれば、こんな感じです。

冒頭に最初のページ1と最後のページ16がきていますが、これについては、前述したA4用紙を折ったときの1と4、二回折ったときの1と8が隣り合っていたことを思い出してください。
2と3、4と5、6と7が見開きのページで左右にくるので、それでパッと見たときの印象を考えながら、バランスがよくなるよう順序を工夫します。
ウェブ上では、業界で使われている台割エディタのようなものも利用できます。興味のある方は検索すれば簡単に見つかります。とはいえ、別にそういう特別なアプリを使う必要はありません。
見開きタイプの台割であれば、コピー用紙やメモ用紙を必要な枚数だけ二つ折りにして使ってもいいですし、Word で画面が見開き表示になるよう調整しておけば、そのまま記入することもできますよね。
この記事を書いている筆者は、個人的には、最初の段階では3x5の情報カードを使っています。
ちなみに、英語圏では3x5ですが、日本では5x3という表記が多いでしょうか。縦と横のサイズ(インチ)を示しているだけなので同じものです。
名刺より大きくてスマホより小さいくらいの文具店で売っているごく普通のカードです。
これに手書きでメモし、それをトランプ占いのように並べかえながら、ああでもない、こうでもないと楽しんでいます。厚手の紙なので丈夫ですしね。人と共有する必要があるときは、それをスキャンして渡すだけです。
最終的な割付(レイアウト)はパソコン上で行いますが、あれこれ考えている段階では、手を使ったアナログの作業の方が柔軟な思考ができるような気がします。ま、人によるので職場の慣行や好みでご自由にどうぞ。
とまあ、言葉で書くと面倒に思えますが、実際にやってみると、そう複雑な作業ではありません。が、やるとやらないとでは結果に差がでます。
マンガのネーム
たとえていうと、マンガのネームのようなイメージでしょうか。
ネームというのは、たとえば、雑誌に載せる10ページのマンガであれば、その10ページ分を実際にページごとにコマ割りして、登場人物の動きやセリフなどを書き入れたものです。
あらすじに似ていますが、それより詳細で、ストーリーとしてはほぼ完成していなければなりません。
とはいえ、絵はラフスケッチのままです。顔だったら丸に十字の線だけとか、背景も建物とか風景をパパッと描いただけの簡単なもの——まあ、作者によって個人差はあるでしょうけど。
それを見て担当の編集者は、物語が破綻していないかチェックするわけです。連載であれば、これまでの設定と矛盾していないか、無理な展開で読者がおいてけぼりになっていないか、とか——
そのあたりは担当者によって視点が違うでしょうが、要するに、掲載しても問題ないレベルになっているかを確認するわけです。そこでオーケーが出れば、作家さんは本格的に筆入れしていくことになります。
というわけで、マンガや小説に限りませんが、作者自身とは違う人の目であらためて客観的に見るという作業はあった方がよいでしょうね。
きちんと見直ししたつもりでも、自分の書いたものは、仮に言葉足らずや誤字脱字があったとしても頭の中で脳内変換されて、おかしいところは無意識に修復して読んでいたりしますから。
なので、助言する人がいなくて、自分で自分の作品を読み返すしかないときは、少し時間をおいた方がよいでしょう。
デザイン先割
デザイン先割とは、企画が決定したら執筆前にあらかじめ各ページのレイアウトを決めておくことです。
小説などは原稿が先で、それが完成してから校正し編集しますが、雑誌や写真集、広報誌などでは、各ページのデザインを先に決めておいて、それに画像やテキストを割りつけることが多いようです。
このページでは上半分に〇〇の写真をどーんといれて、下にテキストと写真を横並びにするとか、おおまかなレイアウトを事前に決めておくわけです。
デザインのラフ(いわゆる「たたき台」)ですね。
これを撮影や執筆前におおまかに決めておくと、どういう写真や図表が必要か、テキストはどれくらいの量にすべきかも一目瞭然になるので、取材や執筆もしやすくなります。時間も短縮でき、完成したときのクオリティは確実に上がります。
むろん、たたき台なので、進行中に柔軟に変更してかまいません。
広報誌のような冊子で、できあがった原稿を受けとってから各ページに割り付けていくのは、スペースや字数の問題もあって至難の技だったりしますが、事前におおまかに、ここにはこれ、ここはこれくらいと決めておくことで、そういう苦労を大幅に減らすことができます。何より楽だし時短になります。
雑誌はほとんどこのパターンじゃないでしょうか。
ページの割付(レイアウト)をあらかじめ何パターンか決めておいて、それを適宜に組み合わせて使う、といった感じ。
自分が作ろうとしている本や冊子と似たテーマや体裁のもので、これは読みやすい、見やすいというものがあったら、その現物から逆に台割やデザイン先割を復元してみるというのも、よい本を作るためには有効な方法です。
工業製品の開発でよくあるリバース・エンジニアリング(既存の製品を分解して構造や設計を調べる作業)に似ていますね。
工業製品では、やり方によっては知的財産権の侵害になりかねませんが、本や冊子であれば、外側の枠組みを借りるだけで、内容や画像はまったく別の物を使うので問題はないでしょう。本の構成のコツをつかむには、おすすめの方法です。



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