これだけは押さえておきたい電子書籍の基礎知識1~10(上)

電子書籍の基礎知識1~5ノウハウ

かつて「紙の本か電子書籍か」が熱く語られたこともありました。
が、もうそういう時代ではありませんね。

それぞれに長所と短所があり、両者は互いに補完し合う関係にあるといえます。

つまり、「紙の本か電子書籍か」の硬直した二者択一ではなく、必要に応じて、出版する側も読む側も両方を状況に応じてうまく使い分けることが賢明な選択といえます。

ここでは、出版社や企業の出版部門の実務担当者だけでなく、自分の本を出したいという作家志望の方を含めて、電子書籍を作成/出版する際に理解しておくべき基本事項を整理しておきます。

内容は、次のとおりです。

  1. リフロー型と固定型(テキスト中心か画像中心か)
  2. 縦書きか横書きか+ルビの処理
  3. ファイル形式の選択
  4. フォントの埋め込み
  5. 目次の設定
    このページ(上)では、ここまでを取り上げます。
    ——————————————————–
    下記(6~10)については(下)を参照してください。
  6. ページの構成(空白ページの処理)
  7. 奥付に必要な項目
  8. カラー画像の処理(RGB と CMYK)
  9. オンデマンド出版(紙の本)と判型
  10. 国際図書番号 ISBNと書籍JANコード

1. リフロー型と固定型(テキスト中心か画像中心か)

電子書籍は、専用のリーダーはいうまでもなく、スマホでもタブレットでもパソコンでも、対応するアプリをインストールしておけば、デバイス(機器)を問わず、自由に読むことができます。

ブログやホームページなどのウェブサイトは現在、パソコンとスマホで画面が変わるレスポンシブ(デバイスの画面の大きさに応じて最適な表示になるように、文字の大きさや画像の配置が自動的に変化する)タイプが一般的になっています。

電子書籍も表示するデバイスに応じて、一画面に表示される文字の大きさや行数が自動的に変化します。文字の大きさを自分用にカスタマイズすることも可能です。

小説やエッセイなど文字中心の本では、これが一般的ですね。これが「リフロー型」です。

固定(フィックス)型では、それが変化しません。

各ページは画像として埋め込まれているので、どのデバイスでも、ページ全体が画面の大きさに応じて拡大または縮小して表示されます。

マンガや写真集が固定型の代表でしょうか。

複雑なレイアウトを用いた週刊誌や雑誌、料理のレシピ本などでも固定型になっているものがあります。

その場合、紙版と同じ見た目が実現できますが、大判の雑誌をスマホのような小さな画面に表示させると、細部が読み取りにくく、該当部分を自分の指を使って拡大する必要があったりします。そのため、購入(ダウンロード)時に「大きな画面のデバイスでないと閲覧しにくい/ファイルサイズが大きいので表示が遅くなる」といった注意が示されることもあります。

というわけで、電子書籍の作成では、まず「リフロー型か固定型か」を決めなくてはなりません。

小説やエッセイ集、自伝など文字が主体のものはリフロー型

写真やイラストがメインのものは固定型

この指定は、原稿ファイルを電子書籍の一般的なファイル形式である EPUB / ePub 形式に変換する際に行います。

  ※ EPUB (読み:イーパブ)= Electronic Publication(電子出版)の略。
 国際電子出版フォーラム (IDPF) が策定した電子書籍のファイル・フォーマ ット規格。

以前、最大手のアマゾン・キンドルでは、ePub ファイルをさらに mob ファイルという独自形式に変換する必要がありました。現在では、mob は使用停止され、Word ファイルをそのままアップロードすればシステムの方で自動的に変換してくれます。

キンドル以外のストアでの電子書籍販売も検討している場合、自分で ePubに変換して確認する必要があります。

2. 縦書きか横書きか & ルビ(フリガナ)の処理

固定型では画像1枚が1ページになります。この場合は「縦書き/横書き」という問題は生じません。

リフロー型では、文字を縦書きにするのか、横書きにするのかも重要です。

本を右からめくる(小説などの日本語の単行本はほとんどこれ)か、左からめくる(理系の教科書やマニュアル、洋書など)か、に影響するからです。

ワードや一太郎などのワープロソフトで原稿を作成する際に、ソフト/アプリで縦書き表示または横書き表示に設定しておけば、ePub ファイルへの変換では自動的にそれと同じになります。

かつて、ePub 形式で日本語を扱う場合の大きな問題の1つがルビ(フリガナ)でした。

現在の EPUB3 形式のファイルは、このルビに対応しているので、必要に応じて簡単にフリガナをつけることができます。ワードや一太郎などのワープロソフトを使用していれば、そのソフトによるフリガナの設定で特に問題はありません。細かい設定は一太郎の方が得意です。

EPUBファイルといっても、ウェブサイトで一般的な html 形式のファイルの一種 (XHTML) なので、原稿作成にテキストエディタを使っている場合は、 html タグを書いて編集することができます。

[ ルビの例1 ]
「電子書籍」に「でんししょせき」というフリガナをつけたい場合

<ruby>電子書籍<rt>でんししょせき</rt></ruby>

実際の表示

電子書籍でんししょせき

[ ルビの例2 ]

「重版出来」という語句で、漢字一文字ごとにルビを独立した「じゅう はん しゅっ たい」とつけたい場合

<ruby>重<rt>じゅう</rt>版<rt>はん</rt>出<rt>しゅっ</rt>来<rt>たい</rt></ruby>

実際の表示

じゅうはんしゅったい

※ ruby は元々はルビー型活字の意味でした(ちなみに、宝石のルビーも同じスペルです)。htmlタグとしては “漢字(かなや英数字でも可)ルビ漢字(かなや英数字でも可)ルビ” の構文でフリガナを指定します。

3. ファイル形式の選択

電子書籍のファイル形式は現在では ePub 一択です。

ePubへのファイル変換さえ可能であれば、原稿の執筆そのものは、使い慣れているワードや一太郎などのワープロソフト、VS Code や秀丸などのテキストエディタ、Evernote や OneNote などのメモ/ノート・アプリが利用可能で、特に制限はありません。

とはいえ、縦書きでルビを多くつけるようなものでは、日本語処理に特化している上に ePub 出力も可能な一太郎が便利でしょうか。

むろん、電子書籍の販売をアマゾンのみに限定するのであれば、専用サイトにログインしてそのままワード・ファイル(システムで推奨されている)をアップロードできるので問題はありません。アップロード後に変換されたePubファイルをチェックして異状がないか確認しておきます。

電子書籍とは別にオンデマンド出版で紙の本も出したい場合には、電子ドキュメントとして広く普及している pdf ファイルで提出することが多いですね。その場合、原稿が文字だけのテキストファイルであっても、見た目の体裁(判型やレイアウト)を整えて pdf として保存しておきます。

つまり、「電子書籍+オンデマンド出版での紙本」を予定しているのであれば、ePub ファイルに変換する電子書籍用ファイルと紙本用の pdf ファイルをそれぞれ用意しておく必要があるというわけです。

※ 電子書籍用ファイルをそのままpdfファイルに変換して紙本を製作できるようにする自動化されたシステムもいろいろ導入されてはいます。現時点(2024年)では、電子書籍と紙本ではそれぞれ別のファイルを用意した方が詳細にチェッック可能で、トラブルが少ない印象です。

4. フォントの埋め込み

本の顔は表紙です。とはいえ、実際に読んでいるときの印象は本文の文字のフォントに(さらに一行の語数や表示される行数にも)左右されることも多いですね。

フロー型の電子書籍では一行の語数や表示される行数を管理することはむずかしいですが、フォントに関しては対応できる場合があります。フォントは教科書でいえば明朝体だし、マニュアル本はゴシック体が多いでしょうが、電子書籍でも、フォントを指定したり埋め込んだりすることが可能な場合もあります。

ただし、各電子書籍販売ストアが採用している表示スタイルや閲覧するデバイスがそのフォントに対応していなければ、既定のフォントが代替として使用されます。ですから、リフロー型の本でフォントを指定しても、必ずしも本を出す側のイメージ通りにならないことがあるということもおぼえておきましょう。

オンデマンド出版による紙の本で pdf ファイルを用意しておくと、紙の本に関しては、その問題を回避できます。pdfファイルでフォントを指定して埋め込んでおけば、基本的にそのフォントを使って指定したレイアウト(文字数&行数、図表の配置)で印刷されるからです。

5. 目次の設定

本には目次が必要ですが、それは電子書籍でも同じです。

というより、電子書籍では、目次は紙の本より重要な機能を持っています。

紙の本の目次は内容の構成を示すだけですが、電子書籍の目次はホームページなどでよく使われているハイパーリンクになっているので、目次から本の途中の章や項目に瞬時に移動することができます。ハイパーリンクはウェブサイトでは下線付きの青字で示される(デフォルトの設定)ものが多く、リンクの設定された文字列(や画像)をクリックすると、参照先の該当箇所やサイトに瞬時に移動するというアレです。

この目次の設定について、電子書籍では、リンクに不備があり参照先にうまく移動しない、というトラブルを見かけます。電子書籍販売サイトによっては、それだけで ePub として不良品と判断され、受け入れてもらえないこともあります。

目次をハイパーリンクにすること自体は、ワードでも一太郎でもきちんと指定しておけば自動的にやってくれますが、ファイル変換後に、リンクが有効かチェックしておく必要があります。

「これだけは押さえておきたい電子書籍の基礎知識1~10(上)」の続きで、6~10について取り上げます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました