オンデマンド出版による紙の本

ノウハウ

オンデマンド出版とは

オンデマンド (on demand) は「要求/要望に応じて」という意味の英語で、オンデマンド出版とはお客様の注文に応じてそのつど原稿の印刷、製本が行われて書籍が発送される「注文生産」方式による本の出版流通システムを指します。

日本のバブル経済が崩壊する前世紀末(こういう表現をするとなんかすごく古い感じがしますが、二、三十年ほど前の一九九〇年代)にはすでに欧米で普及していました。

当時は、絶版になっている古典やベストセラーになりにくい特殊な領域の専門書など、通常の出版では採算がとれない貴重な本を復刻する形が主でした。

現代のオンデマンド出版

現在のオンデマンド出版は、ネットを介した本の流通やコンピュータによるデスクトップ・パブリッシング (DTP) 技術の発展により、出版する側が本の電子ファイルを登録しておくことで、お客様の注文に応じて個別に原稿の印刷、製本、配送が自動で行われるようになっています。

本を供給する側と購入する側それぞれにメリットとデメリットがあります。

メリット

まず出版する側にとってのメリットとして、まず第一に、本の絶版という状態がなくなることが挙げられます。

また、初版の発行部数で頭を悩ませたりしなくてよいし、在庫の倉庫保管料、返品された本の処分にかかる費用なども不要になります。

何万何十万部というベストセラーになることが期待できないニッチな(マニアックな、特殊な)市場向けの本や無名作家の本でも出版することが可能になり、広く知ってもらう機会が増えます。

読者にとってのメリットは、すでに絶版になった入手困難な本でも、つねに新刊の状態で読めることです。

古い本は、紙が日焼けやシミのために黄色や茶色に変色していたり、手あかにまみれていたり、特有のにおいがあったりします。この古本屋のにおいが好きという人もいますが、オンデマンド出版では常に「たった今、印刷・製本された」ばかりの本が読めるわけです。

もう少し詳しく述べると、通常、本の出版では、本の対象となる読者層を想定した販売見込み数に基づいて初版の部数が決定されます。多くの場合、初版がすべて売れると経費が回収できるように発行部数や価格が設定されます。つまり、本が利益を生むのは増刷された時からなのです。

重版出来じゅうはんしゅったい重版出来じゅうはんしゅったいという言葉が出版関係者にとって吉兆として歓迎されるのは、そういう意味です。ま、当たり馬券という感じでしょうか。逆にいえば、増刷がかからない本の著者は相手にされなくなります。

 ※増刷ぞうさつ増刷ぞうさつは同じ内容で増し刷りして出版すること。
  重版は内容(版)を変更し重ねて(同じ書名で)出版すること。
  増刷と重版は厳密にいえば異なりますが、業界の慣行としては、ほとんど同じ意味で用いられることが多いようです。

デメリット

オンデマンド出版のデメリットは、本を供給する側と本の読者の側のどちらにとっても単価が高くなりがちなことです。大量生産品と異なり一品ごとの生産(印刷・製本)になるので、これはやむをえません。

読者はもちろん安い方がうれしいでしょうが、出版する側にとっても「高価格=売れにくい」という原理が働くので、痛しかゆしなのです。本の場合、価格が高いからといって利益がそれだけ多くなるとは限りません。

このデメリットは、電子書籍と紙の本を組み合わせる(ハイブリッドにする)ことで補うことができます。

電子書籍も紙の本も完成させるまでにかかる経費(原稿料や編集校正、表紙、装丁などの諸費用)は同じですが、いったん本ができあがってからが異なります。

紙の本の場合は、初版を売り切って経費を回収した後にめでたく増刷になったとしても、増刷に必要な紙代、印刷・製本、配本の費用はやはり追加で必要になります。

電子書籍には初版という概念がなく、また本がいったん完成すると、その後は、その本がどれだけ売れたとしても経費が増えることはありません。

むろん、電子書籍の場合も電子書籍販売ストアへの手数料という形でそれに相当する金額を支払うわけですが、それは売上から差し引かれるだけで、出版する側がその経費を追加して支払う必要はないのです。

そのため、思いきった価格設定が可能になります。

たとえば、電子版の価格を紙の本の価格の十分の一にしたとしても、それで販売数が十倍になれば、売上も利益も変わらないわけです。紙の本では、売れて増刷する分にも追加で経費が必要になるため、こういう価格戦略はとうてい無理です。

とはいえ、日本では「本は紙の本で読みたい」という読者の方が多いのは事実なので、そのためにオンデマンド出版という選択肢を用意するわけです。「少しお高くなりますが、よろしいですか?」という感じでしょうか。

二者択一は無意味

令和の時代になり、かつて激論がかわされていた「電子書籍か紙の本か」という二者択一の議論は、あまり意味がなくなってきました。時と場合や自分の好みに応じて使い分ければすむ――というわけです。

安さや持ち運びの利便性、本文検索の容易さが魅力だと思えば電子書籍を選べばよいし、どうしても紙の本にこだわりたいという人はオンデマンド出版による紙の本を選ぶか、あるいは本の内容によって両者をうまく使い分ける――という形で、選択肢が用意されています。現代は、そういう時代になってきているのです。

ちなみに、エイティエル出版の電子書籍では、オンデマンド出版による紙の本が利用できるものと利用できないものが混在しています。このあたりはまだシステムとして成熟していないこともあり、試行錯誤しながらやっているという面があります。準備のできたものから、順次、対応します。

エイティエル出版のオンデマンド出版による紙本は、現時点では業界最大手のアマゾンと連携したシステムに対応しています。本によっては、それに加えて、楽天KOBOや実店舗の東京・三省堂書店で利用可能なものもあります。可能なものについては、その本を紹介しているページ(好評既刊)に記載していく予定です。

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