『スナーク号の航海』(ジャック・ロンドン著)を刊行しました

ネット連載していたアメリカの作家ジャック・ロンドンのヨットによる太平洋周航記『スナーク号の航海』を電子書籍として出版しました。

『野生の呼び声』や『白い牙』などのアラスカ物で知られるアメリカの作家ジャック・ロンドンは、『馬に乗った水夫』という伝記のタイトルが象徴しているように、北海道沖でのアザラシ猟の漁船に乗り組んだり、ヨットを建造して世界一周航海に出発するなど、生粋の海の男でもあった。本書はヨット、スナーク号による太平洋航海記の全訳(本邦初訳)である。ジャック・ロンドンが十七歳で懸賞エッセイに応募して一等になった幻の、ある意味で事実上の処女作となる『日本沖で遭遇した台風の話』も巻末に収録。

電子ブックの構成や書式の都合で割愛した原著の写真についても「立ち読み」コーナーですべて閲覧可能です。


立ち読み:『スナーク号の航海』(ジャック・ロンドン著)1/5

Amazon、楽天KOBO、紀伊國屋書店 Kinnopy、Appleブックスなど主要電子書籍ストアで販売されます。

発行日は本日(11月10日)ですが、各サイトで購入可能になる時期には多少ずれがあります。

また、オンデマンド出版で紙本も購入可能となる予定です(現時点で Amazon のみです。なお、手続き上、電子書籍の発行から紙書籍の販売までは1,2週間遅くなります)。

 

 

立ち読み:『スナーク号の航海』(ジャック・ロンドン著) 5/5

訳者あとがきを読む

本書はアメリカの作家ジャック・ロンドン(一八七六年~一九一六年)が三十一歳になった一九〇七年、ケッチ型帆船のスナーク号で南太平洋を航海したときの記録 The Cruise of the Snark の全訳である。
この航海は当初、数年をかけた世界一周を予定していたが、本書を読みすすめるとおわかりのように、南太平洋でさまざまな風土病や感染症などの疾病に作家自身を含めた乗組員のほとんどが苦しめられ、オーストラリアに到着したところで航海を断念している。 続きを読む

立ち読み:『スナーク号の航海』(ジャック・ロンドン著) 4/5

『日本沖で遭遇した台風の話』を読む

『野生の呼び声』や『海の狼』など数多くのベストセラーを書いたアメリカの作家ジャック・ロンドンは、複雑な家庭環境で育ち、家も貧しかったため、日本の小中学校にあたる公立学校(八年制)は出たものの、上の学校に進学することはできず、缶詰工場で働いたりカキの密漁を行ったりしたあげく、北太平洋でアザラシ漁に従事する遠洋漁船に乗り組んだ。このとき、日本の土(小笠原諸島と横浜)も踏んでいる。
そのときの体験をエッセイにまとめ、サンフランシスコの地方新聞(コール紙、後のエグザミナー紙)のコンテストに応募したのがこの作品で、みごと一等を射止めた。十七歳のときである。
これが十年後には時代の寵児ともてはやされることになる作家の、初めて活字になり金を稼いだ作品である。小説ではないが、言葉の本当の意味で、ジャック・ロンドンの処女作といってよい。
過酷な自然と人間とのかかわりを描き、将来の人気作家の片鱗を十分に感じさせてくれる。


日本沖で遭遇した台風の話

朝直の四点鍾だから午前六時だった。ちょうど朝食を終えたころ、甲板で当直していた者には停船の準備、他の者は全員、実際に漁猟を行うボートのそばで待機せよという命令がなされた。 続きを読む

立ち読み:『スナーク号の航海』(ジャック・ロンドン著) 3/5

著者あとがきを読む

スナーク号は水線長四十三フィート(約十三m)で全長は五十五フィート(約十六・七m)、船幅十五フィート(約四・六m)、喫水が七フィート八インチ(約二・三m)だ。二本マストのケッチで、帆はフライングジブにジブ、フォアステイスル、メインスル、ミズン、スピンネーカーがある。
船室の高さは六フィート(約一・八m)で、甲板は手すりで囲まれたところと平らで何もないところに分かれている。水密区画は四つ。七十馬力の補助ガソリンエンジンを動かすのに、一マイル当たり約二十ドルの経費がかかる。五馬力のエンジンは故障していなければポンプを動かしてくれるが、サーチライトの電源にも二度ほどなってくれた。船載の十四フィート(約四・二m)のボートのエンジンはたまには動くようだが、ぼくが乗ろうとすると決まって動かない。
だが、スナーク号は帆船だ。どこへでも帆走で行く。 続きを読む

立ち読み:『スナーク号の航海』(ジャック・ロンドン著) 2/5

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著者あとがきを読む

ジャック・ロンドン17歳のときの『日本沖で遭遇した台風の話』を読む

訳者あとがきを読む

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立ち読み:『スナーク号の航海』(ジャック・ロンドン著)1/5

スナーク号の航海
ジャック・ロンドン著
明瀬和弘訳
発行日:2020年11月10日
ISBN 978-4-908086-08-3

『野生の呼び声』や『白い牙』などのアラスカ物で知られるアメリカの作家ジャック・ロンドンは、『馬に乗った水夫』という伝記のタイトルが象徴しているように、北海道沖でのアザラシ猟の漁船に乗り組んだり、ヨットを建造して世界一周航海に出発するなど、生粋の海の男でもあった。本書はヨット、スナーク号による太平洋航海記の全訳(本邦初訳)である。ジャック・ロンドンが十七歳で懸賞エッセイに応募して一等になった幻の、ある意味で事実上の処女作となる『日本沖で遭遇した台風の話』も巻末に収録。

目次

第一章   そもそもの始まり
第二章   信じられない、ひどい話
第三章   冒険
第四章   自分の道を見つける
第五章   ハワイが見えた
第六章   最高のスポーツ
第七章   モロカイ島のハンセン病患者
第八章   太陽の家
第九章   ハワイから南太平洋へ
第十章   タイピー
第十一章  自然人
第十二章  歓待
第十三章  ボラボラのストーン・フィッシング
第十四章  アマチュア航海士
第十五章  ソロモン諸島の航海
第十六章  ソロモン諸島独特のピジン語
第十七章  やぶ医者開業
著者あとがき(リンク)
日本沖で遭遇した台風の話(リンク)
訳者あとがき(リンク)


チャーミアンに捧ぐ

港に入る時も出るときも、また航海中にも
昼夜をわかたず舵を握り、
緊急時には舵を離さず、
二年間の航海を終えると涙した


君は外洋に吹きすさぶ風の音を聞いた
そして、大海原にたたきつける雨音を
ずっと海の歌を聴いてきた
なんと長く!
なんと長く続いたことか!
また出かけようぜ!


第一章   そもそもの始まり

きっかけは、カリフォルニアのグレン・エレンにあるプールにいるときだった。泳ぎ疲れると水から出て砂の上に寝そべり、肌にあたたかな大気を呼吸させつつ日光をあびるというのが、ぼくらの習慣だった。ロスコウはヨット乗りだ。ぼくも多少は船の経験があった。となれば、船について語りあうのは必然だ。
小型の船や小型艇の耐航性について論じ、スローカム船長とスプレー号による彼の三年に及ぶ航海について話しあったりした。
ぼくらは、全長四十フィート(約十二メートル)の小さな船で世界周航するのは別にこわくないと互いに言いはった。また、実際にやってみたいよな、とも。結局、この小型ヨットでの世界一周以上にやりたいことは他にない、ということに落ちついた。
「やろうぜ」と、ぼくらは口をそろえて言った……冗談半分に、だ。
その後で、ぼくはチャーミアンに「本気か」と、そっと聞いてみた。戻ってきた返事は「最高じゃないの」だった。
次にプール脇で砂に寝そべって肌を焼いているとき、ぼくは「やろうぜ」とロスコウに言った。
ぼくは本気だった。やつもそうだった。というのも、やつの返事は「出発はいつにする?」だったからだ。 続きを読む